外交の世界史の再構築

活動報告

2022年3月16日、松方冬子が、イギリスのウォーウィック大学University of Warwick のGlobal History and Culture Centr (GHCC)で、報告"Toward a Global History of Diplomacy: An Attempt to Break Down Europe’s ‘City Wall’"(オンライン)を行いました。

 科学研究費国際共同研究加速「「循環」を問い直す―物質・文化・環境を繋ぐグローバルヒストリー」およびモンスーンPJの成果ですが、「外交の世界史」とも深いかかわりがあります。


2022年2月24日、「英語によるオンライン・プレゼンテーション講習会」を開催しました。

アルバ・エデュ代表 竹内明日香さんを講師としてお招きし、松方ゼミのゼミ生の山本瑞穂さんと松方冬子が練習台となりました。

英語によるオンライン・プレゼンテーション講習会

(参加記)
 アルバ・エデュ代表、竹内明日香さんを講師としてお招きし、英語によるプレゼンテーションの手法について学びました。発声のコツや発表内容の組み立て方のほか、山本瑞穂・松方冬子両氏のパワーポイントをもとに、優れている点や改善案について具体的に解説していただきました。発表原稿を作成する際のポイントや、読み上げる際の注意点も大変勉強になりました。発表の冒頭にもっとも強調したい点を持ってきて聴衆を惹きつけることも重要だと感じました。質疑応答も活発に行われ、話題はプレゼンテーションを重視しない日本の教育の背景にまで及びました。コロナ禍にともなって授業のオンライン化が進められたため、パワーポイントを用いてオンデマンド授業を作成する機会が増えています。英語による学会発表においてはもちろんのこと、日々の授業でも今回学んだことを生かしていきたいと思います。

(文責:川口洋史)

(主催者から)
 1時間半の予定が、ディスカッションで2時間半になりました。「英語の」「プレゼンテーション」技法の講習にとどまらず、「伝えたいことを」「伝わるように」伝える大切さ ―というより、むしろ時代の要請― が話題になりました。

(松方冬子)

2021年12月26日、横浜国立大学で、第4回研究会を開催いたしました。

スケジュールは下記の通りです。

(前半)
松方冬子「関税と領事の前史―オランダ商館長日記から外交の世界史を問う―」
討論
(後半)
吉岡誠也「岩崎奈緒子『近世後期の世界認識と鎖国』を読んで」
討論

第4回研究会

 今回は共同研究が始まってから約2年ぶりに対面(オンライン併用)での研究会となりました。共同研究が本格始動してからは初めての対面研究会ということもあり、前半では研究代表である松方冬子氏から、今回の共同研究で検討すべき概念である、①条約、②関税、③領事について、松方氏の研究領域を中心としながらその前史や研究史を紹介し、他地域の事例を詳しく見ていく事で、「関税自主権の喪失」と「領事裁判権」からなる「不平等条約」という語りを見直し、「外交の世界史」に向けた提言を行いたい、という展望が語られました。
 通説的な語りから脱するために「外交の現場」を見つめ直して新たな語りを生み出すのは、大変な労力が必要です。まず、共同研究者内での専門分野の違いによる概念・前史の違いがあり、最初はこの中で共通の理解を作っていかなければいなりません。オンラインでの討論では限界があり、コロナ禍が早く終息し対面での議論の機会が増えることを願います。
 後半は岩崎奈緒子『近世後期の世界認識と鎖国』(吉川弘文館、2021年)の書評会が行われました。吉岡誠也氏による書評では、世界認識の変化という観点から江戸幕府の政策決定の背景を説明し、この変化をふまえつつラクスマンへの国法書に込められた幕府の意図を実証的に明らかにしたことが評価される一方で、国法書・鎖国とは結局何だったのか、等の疑問が提示されました。討論では、精緻な研究ではあるものの、用いられている概念が当時の文脈と合っているのかという疑問や、洋学史的視点で描かれるため、史料用語の儒教的文脈が視野に入っていない点などが指摘されました。

(文責:木村可奈子)

2021年7月24~25日、オンラインで、第3回研究会を開催いたしました。

ラインアップとそれぞれの参加記は下記の通りです。

(第1部)「非国家地域の外交―アメリカ大陸を素材に―」
コーディネーター:森永貴子
趣旨説明:松本あづさ

岩崎佳孝(甲南女子大学)「アメリカ合衆国における先住民主権の所在―インディアン・カントリーの刑事裁判権の考察より―」
田宮晴彦(水産大学校)「建国期水産業と「海民」コントロールの試み-初期捕鯨業と私掠船-」
森丈夫(福岡大学)「同盟と臣従のあいだ―18世紀前半マサチューセッツ―ワベナキ講和外交から見るイギリス領北アメリカ先住民外交の性格―」

2021年7月24日~25日「非国家地域の外交―アメリカ大陸を素材に―」

(参加記:第1部)
 アメリカ史研究者の方々をお招きし、オンラインで「非国家地域の外交―アメリカ大陸を素材に―」が開催されました。まず松本あづさ氏から、近代以前における国家と非国家地域の外交を理解するために、蝦夷地とも比較されてきた北米の事例に注目するという趣旨説明がなされました。続けて岩﨑佳孝氏のご報告では、19世紀前半に北米先住民は主権を有する一方で、条約によって合衆国に従属し、その主権に限界があると規定され、以後連邦政府と州が先住民自治体の刑事裁判権を侵食していったことが指摘されました。田宮晴彦氏のご報告は、アメリカ建国期において捕鯨民がナショナリズム高揚のために持ち上げられた一方で、一種の「賤民」と見なされていたことを明らかにされ、また当時の経済構想における捕鯨業の位置を考察する必要性を指摘されました。森丈夫氏のご報告では、17世紀後半から18世紀初頭における先住民ワベナキとマサチューセッツ側との外交において、当初の条約では現実に反して後者が前者に「臣従」を強要しようとしたが、のちに「友人」のあいだでの「同盟」関係に変化したこと、しかし関係の不安定さや相互不信は残り続けたことが明らかにされました。
 森氏が指摘された、外交におけるイギリスの論理と実際との差異や相互の認識の齟齬は、アジアにおける外交の実態との類似性を感じさせました。一方、岩﨑氏との質疑応答によれば、19世紀になると先住民側も条約の内容を十分理解していたとのことでした。同時に、そこでの主権とは侵害されない土地を持つ権利を意味するとのご指摘は、主権の理解について蒙を啓かれる思いがしました。また田宮氏との質疑応答では、18世紀半ばに捕鯨民が密輸船と密輸監視船双方に乗組員として参加していたことや、北米―広東―長崎間の貿易が話題に登り、フロンティア社会の流動性やグローバルな時代相が印象に残りました。
 近世における条約のあり方や主権の意味、およびそれを取り巻く歴史的文脈について大変勉強になりました。

(文責:川口洋史)

(第2部)「西洋法制史から見た条約・領事(パート2)」
趣旨説明:松方冬子
皆川卓(山梨大学)「初期近代ヨーロッパの国家間仲裁―多様な『主権』を架橋する法発見の背景について―」
大東敬典「外交の形成―オランダ東インド会社の契約と文書の作成―」

オブザーバーとして、葛西康徳氏、比嘉義秀氏、松本英実氏、武藤三代平氏のご参加を得ました。

2021年7月24日~25日「西洋法制史から見た条約・領事(パート2)」

(参加記:第2部)
 皆川報告は、初期近代ヨーロッパにおける国家間の仲裁をテーマとする。仲裁は、国家間での法および執行のシステムが及ばない領域における、戦争以外の紛争解決方法である。それが、いかなる法的・制度的理論背景において、どのような対象について、また具体的にどのような手続き、プロセスのもとで行われ、機能していたのかが、類型的に論じられ、事例としてボヘミア・バイエルンの国境紛争の仲裁が紹介された。
 質疑では、ローマ法や教会法の位置づけ、仲裁と条約の関係、主権の解釈の仕方などが議論された。

 大東報告では、まずアジアの政治支配者側から受けた特許状からオランダ東インド会社の外交を見るという、従来の研究アプローチとは異なる視点、すなわち「現地」での交渉に視点を置いて東インド会社アジア外交を研究するという姿勢が示された。その上で、合意文書の作成と契約文書集の集成を検討することで、国際法・万民法などの概念ではとらえきれない外交実態、つまり現地での関係構築の実態が浮かび上がることが示された。
 質疑では、イギリス東インド会社との比較、特許状octrooiと合意文書contractenの相違、文書文化等が異なった場合による対応の違いなどについて確認された。

(文責:菊池雄太)

(主催者から)
 多彩な参加者を得て、刺激的な2日間となりました。ご報告くださった、岩崎先生、田宮先生、森先生、皆川先生、大東さん、趣旨説明をご準備くださった松本さん、オブザーバーで参加された武藤さん、葛西先生、松本英実先生、比嘉義秀さんに、感謝したいと思います。
 今回は、仮に「非国家地域の外交」というテーマを掲げてみました。Adam Clulowが、The Company and the Shogun: The Dutch Encounter with Tokugawa Japan (New York: Columbia University Press, 2014) p. 220において、華夷秩序的な外交はstateless spacesにはそぐわないという趣旨のことを述べたのに対する疑問から出発しています。東アジアにも、蝦夷地、台湾、三山統一以前の沖縄、ヌルハチ以前の女真族居住地など、非国家的な地域と言えるものは多くあり、それなりに周辺地域と外交的な関係を築きつつ、存在していたからです。本研究PJの終了時には「非国家地域」という概念を使わなくても説明できるような外交の世界史を目指したいと思います。
 「西洋法制史から見た条約・領事(パート2)」のほうは、まだまだ勉強途中という感じです。17~18世紀のオランダ共和国がヨーロッパ各地に送った外交使節団の残した記録のリストを見ると、「仲裁に行く」使節団が多く見られます。皆川報告により、その時代的な背景がわかりました。大東報告は、Corpus Diplomaticumというオランダ東インド会社外交の基本史料集の翻訳という、重厚な実証研究に基づくもので、これからの発展が楽しみです。

(松方冬子)

2021年5月22日、早稲田大学ロシア東欧研究所及び科研費基盤研究(C)「エスニシティと流通の交錯-近代ユーラシア経済から見たネットワーク」(代表:森永貴子)と共催で、研究会「ヨーロッパのアジア進出における外交と条約」を開催しました。

大東敬典「絹から砂糖へ―オランダ東インド会社の外交と商業―」
塩谷哲史「ロシア帝国の中央アジア進出とヒヴァ・ハン国との「条約」(1843年)」
コメント:森永貴子、堀井優


2021年5月16日、松方冬子が、Asian Universities Alliance(AUA)の ”The Asian Melting Pot: History through a Multicultural Perspective” conference において、口頭報告を行いました。

 AUAのワークショップは、タイ・チュラロンコン大学の主催で、オンラインで行われました。2月20~21日の予定でしたが、ミャンマーのクーデターの影響で、5月15~16日に延期になりました。
 最終セッションで、松方が、口頭報告 ”Consuls in Asia: How a Chief of Foreign Residents Became a Diplomat”を行いました。また、続いて行われたwrap-upセッションにも参加しました。
 AUA主催の国際学会で、文系のテーマが扱われるのは、今回が最初と聞きました。今後も、続いていくと良いと思います。

(本ページの無断転載を禁止します。)

松方 冬子(まつかた ふゆこ) 東京大学 史料編纂所 教授 博士 (文学) Professor,the University of Tokyo Ph.D.(the University of Tokyo, 2008)

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