東京大学史料編纂所

特定共同研究【複合史料領域】合戦の記憶をめぐる総合的研究

研究課題 東アジアの合戦図の比較研究
研究期間 2019~2021年度
研究経費
(2019年度)125万円
研究組織  
研究代表者 須田牧子
所内共同研究者 藤原重雄・金子 拓・畑山周平・及川 亘・黒嶋 敏・林 晃弘・岡本 真
所外共同研究員 板倉聖哲(東京大学)・井上泰至(防衛大学校)・鹿毛敏夫(名古屋学院大学)・高橋 修(茨城大学)・高山英朗(福岡市博物館)・堀 新(共立女子大学)・山崎 岳(奈良大学)
研究の概要
  • 2019年度
【2019年度】
(1)課題の概要
16世紀から17世紀にかけて、大規模戦争や王朝交替を経験した東アジア諸国では、社会が混沌から安定に向かう過程で、戦争の記憶を視覚化する様々な画像作品が製作された。日本では16世紀後半期における川中島の戦い・長篠の戦い・関ヶ原の戦い・大坂の陣などを題材にした合戦絵巻・合戦図屏風などが作成され、中国大陸・朝鮮半島においても、嘉靖倭寇・壬辰丁酉倭乱を題材にした戦勲図・武功図が作成されたことが知られている。戦勲・武功を顕彰するための合戦図の作成流行は16世紀~17世紀の東アジア三国に共通する動向であったとも言いうるかも知れない。こうした可能性を念頭に置き、本研究では16~17世紀を中心とした、東アジアの合戦図制作の動向のラフスケッチを試み、その展開・受容過程の共通性と差異の抽出を試みる。比較の視点を持つことで、これまで積み重ねられてきた倭寇図像研究・戦国合戦図研究に新たな切り口が生まれることが期待される。

(2)研究の成果
期間初年次に当たる2019年度は、本研究の方向性を明確にするためもあり、とくに韓国における合戦図・戦勲図に類する絵画作品の概要の把握を積極的に進めた。そこでソウル大学の金時徳氏に、6月の研究会では韓国の壬辰丁酉倭乱に関係する絵画作品について報告していただき、あらためて1月の研究会では、朝鮮国内の内戦及び女真との合戦図をも含めた絵画作品の網羅的な紹介をしていただいた。その結果、浮かび上がった課題として、(1)現存する壬辰丁酉倭乱関係絵画の数の問題、(2)これまで中国の契会図に類するものと考えられてきた作品に「合戦図」「戦勲図」の要素を認めうること、(3)韓国(朝鮮)側において描かれることのない蔚山合戦の合戦図が日本で作成された意味、(4)壬辰丁酉倭乱をモチーフとする日本側の合戦図が蔚山に限られることの意味、などの諸点が明らかとなった。
また、1月の研究会では、あわせて蔚山合戦図屏風の熟覧調査を行なった。同屏風は基礎的な研究が十分に蓄積されておらず、蔚山合戦図に描かれる軍勢ひとつひとつの検討や、蔚山合戦図屏風の諸作品相互の比較検討が必要であることが認識された。
以上、日中韓の歴史・文学・絵画の専門家が集まって情報を持ち寄り、接点となりうる絵画作品の熟覧調査を行いながら議論を深めることができ、それぞれの分野内では気づくことの出来なかった論点が発見されるとともに、今後の本研究の方向性を見定めていくことに寄与したものと考えられる。