東京大学史料編纂所

特定共同研究【中世史料領域】中世大規模・広域史料群の研究資源化

研究課題 寺門派寺院所蔵中世史料の調査・研究
研究期間 2016~2017年度
研究経費
(2016年度)100万円
(2017年度)120万円
研究組織  
研究代表者 末柄 豊
所内共同研究者 村井祐樹・藤原重雄・谷昭佳
所外共同研究員 小川剛生(慶応義塾大学)・坂口太郎(高野山大学)・高橋大樹(大津市歴史博物館)・長村祥知(京都文化博物館)・福家俊彦(園城寺)・三木麻里(日本大学)
研究の概要
  • 2017年度
  • 2016年度
【2017年度】
(1)課題の概要
中世社会において園城寺を中心とする寺門派の寺院が大きな勢力を有していたことはいうまでもない。にもかかわらず、史料編纂所における寺門派の寺院史料に関する調査・研究の蓄積は、決して多くはない。特に園城寺の所蔵史料については、ここ百年のあいだまったく調査していないに等しい。
園城寺の所蔵史料については、同寺が史料集を刊行し、精度の高い翻刻で活字化され、大半の影印も掲載している。ただし、未収の文書が存在するという点を措いても、翻刻と図版を併載するために、図版が小さく、さらなる研究の進展のためには、鮮明な史料画像が求められる。また、実相院などの寺門派の門跡寺院の所蔵史料についても、目録は公刊されているものの、史料自体は影写本に拠るよりほかない状況がある。
園城寺および実相院の史料の調査・撮影が可能な状況になったことをうけ、園城寺および寺門派の門跡寺院所蔵の中世史料について、高精細なデジタル撮影をともなう調査をすすめ、目録データの整備や、未公刊中世文書の翻刻をおこなうことで、中世史研究一般の研究資源としての活用を促したい。

(2)研究の成果
昨年度に引き続き、園城寺文書(子院文書を含む同寺所蔵の近世初頭までの文書)のデジタル撮影を実施し、対象とする文書の撮影を完了した(全体でおよそ3000齣)。そのうえで、昨年度の撮影データおよび今年度の撮影像データ双方について目録データを整備し、園城寺所蔵中世文書の総合目録を作成した。これによって、園城寺に現在所蔵される中世文書の全貌が明らかになった。さらに、中世における寺観を示す園城寺所蔵「園城寺境内図(5幅)」は、国の重要文化財に指定され、京都国立博物に寄託されており、展示などで公開されることも少なくないが、研究素材として必ずしも利用しやすい環境にはない。そのため、高精細のデジタル撮影をおこない、あわせて原本調査の成果を加味してトレース図を作成した。これに釈文を加え、同図の史料学的な研究さらには園城寺の寺観の展開を研究するための基盤を構築した。以上の調査・研究は、福家・高橋両氏をはじめとする共同研究員の参画によりはじめて可能になったものといえる。
寺門派の門跡寺院については、実相院文書について撮影データにもとづく釈文の作成につとめた。また、聖護院文書についての情報を収集整理し(首藤善樹氏が『本山修験』誌に百回にわたって連載した目録を複写し、中世文書の収蔵状況について精査した)、今後の調査・撮影に備えた。さらに、聖護院門下の住心院(16世紀半ばに退転するが、のち勝仙院によって再興される)の旧蔵文書について集成につとめた。すなわち、住心院文書および園城寺所蔵「勝仙院文書」の撮影をはかるとともに、古書肆において新出史料「勝仙院増堅師伝」を購入した。同書は、江戸時代に勝仙院の文書を書写したもので、これまで世に知られていない住心院旧蔵の文書を収めている。以上については、本務先で実相院・聖護院を対象とする展示を担当した長村氏や史料集『住心院文書』(思文閣出版、2014年)の編集に携わった坂口氏の助力によるところが大きかった。