編纂・研究・公開

特定共同研究【海外史料領域】在外日本関係史料の研究資源化

研究課題 本所所蔵品ならびに中国国家博物館所蔵品にみる「倭寇」像の比較研究
研究期間 2011~2013年度
研究経費
  • (2011年度)170万円
  • (2012年度)170万円
  • (2013年度)170万円
研究組織 研究代表者 須田牧子
所内共同研究者 久留島典子・藤原重雄・保谷 徹・谷 昭佳・高山さやか
所外共同研究者 板倉聖哲(東京大学東洋文化研究所)・ 上田 信(立教大学)・ 鹿毛敏夫(国立新居浜工業高等専門学校)・ 村井章介(東京大学)・ 山崎 岳(京都大学人文科学研究所)
研究の概要

【2013年度】

(1)課題の成果
本所所蔵「倭寇図巻」は一六世紀倭寇のイメージを具体的に描いた絵巻としてつとに知られている。一方、中国国家博物館には「抗倭図巻」と名付けられた絵巻が所蔵されており、他にも倭寇を描いた複数の絵画史料が所蔵されているとのことである。本研究では、中国国家博物館の許可と協力を得て、第一に「抗倭図巻」と「倭寇図巻」の調査・分析をすすめ、二つの絵巻を比較検討して、その史料的性格を明らかにしていく。第二に、国家博物館が所蔵する倭寇関連の絵画史料の調査をすすめ、近世中国において「倭寇」がいかなるものとして記憶されたのかという問題について検討する。
(2)研究の成果
共同研究最終年度となる本年度は、中国国家博物館と一層の連携を図りつつ、新たな倭寇図の捜索を行うとともに、「倭寇図巻」「抗倭図巻」の史料的性格について、これまで蓄積されてきた発見・見解の総合化を試みた。7月の中国調査では、新たな倭寇図の発見には至らなかったものの、個人の戦勲図から模本が生み出されていくという現象は、倭寇図巻に限ったものではない可能性を示唆する発見があり、また三年間の蓄積を背景とした「抗倭図巻」の熟覧は、「倭寇図巻」「抗倭図巻」を作品としてより深く検討するための絶好の機会となった。1月の研究集会ではその成果として、「倭寇図巻」「抗倭図巻」について、絵画自体が何を語るのか、様式的にはどのように読めるのかという点についての追究が具体的になされ、二つの図巻が、中国絵画のどのような流れの中に位置づけうるのかが示された。以上の成果を含め、三年間の共同研究で得られた成果については、論集及び図録として公開する予定である。本年度においては、まずオールカラーの図録の編纂を行い、作業の大半を終えた(6月刊行予定)。これまで得られた「倭寇」像研究に必要な画像を一覧できるようにし、また三年間に蓄積された倭寇図巻研究につき暫定的な結論を示す構成とした。作業にあたっては共同研究員による寄稿をうけたほか、細部にわたるまで教示と助言を得た。本共同研究においては、研究の深化も、研究の進展の契機となる発見も、成果のとりまとめもすべて、各共同研究員が持っている専門知識と人脈によるところ大であり、それなしではなしえなかったことが多い。学際的共同研究の強みが最良の形で発揮されたと言えるだろう。