東京大学史料編纂所

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山口県文書館「毛利家文庫」史料の調査・撮影

 平成九年十一月二十六日から二十八日までの三日間、山口県文書館に出張し、同館所蔵「毛利家文庫」から、近世前期から後期にかけての幕藩関係を研究する上で貴重な史料である『公儀事諸控』の原本調査及び写真撮影を行った。
 本史料は、全二百五十九冊からなるが、中にノドの部分が撮影できない史料があり、これまで写真撮影が困難であった。本所では、今回、同館の許可を得て、修補担当の技術官中藤靖之を同行し、綴じ紐をはずして撮影した上で綴じ直すことにした。その際、紐は類似の新しいもの(絹紐)を使用した。また、綴じ紐をはずした時、同時に原本調査を行い、調書を取った。史料の簡単な修復についても、同行の技術官が行った。

1 今回撮影した史料(撮影順、*印は綴じ紐をはずして撮影した史料)
  *公儀事諸控  四一—一(1)
   公儀事諸控  四一—二(2の1)
  *公儀事諸控  四一—二(2の2)
  *公儀事諸控  四一—三(1)
  *公儀事諸控  四一—四(18の1)
  *公儀事諸控  四一—四(18の2)
   公儀事諸控  四一—四(18の7)
  *公儀事諸控  四一—四(18の8)
  *公儀事諸控  四一—四(18の9)
  *公儀事諸控  四一—六(8の2)
  *公儀事諸控  四一—一四(14の11)
  *公儀事諸控  四一—七(17の13)
  *公儀事諸控  四一—七(37の14)
  *公儀事諸控  四一—七(37の16)
  *公儀事諸控  四一—七(37の17)
   公儀事諸控  四一—一四(14の12)
   公儀事諸控  四一—一四(14の13)
  *公儀事諸控  四一—一四(14の14)
                        以上十八冊(フィルム六リール)

2 簡単な補修を施した史料
  �公儀事諸控  四一—七(37の17)
    中程5丁天地逆転あり→逆転を直して綴じ直し
  �公儀事諸控  四一—一四(14の14)
    中程2丁落丁→落丁分を綴じ直し
  �公儀事諸控  四一—一五(17の6)
    前程に上端欠落→貼り継いで小紙片で補強
  �公儀事諸控  四一—七(37の16)
    中程のノドの部分の虫損を5丁裏打ちして綴じ直し
  �公儀事諸控  四一—一六(40の29)
    虫損8丁を裏打ち
  �公儀事諸控  四一—一七(8の7)
    虫損1丁を裏打ち
  �公儀事諸控  四一—七(37の73)
    虫損を裏打ち、紙片で破損部分を保護
                                   以上七冊

3 綴じ直しの方法
 元の史料は、二カ所を麻紐一本で仮綴じしてあった。綴じ直しにあたっては、料紙の負担を軽減するため、絹紐を二重にし、元の穴を使って二カ所で仮綴じし、両者の紐を延長して結わえた。これは、絹紐の場合、滑りがよく結び目が緩むことを考慮しての措置である。
4 原本調査の所見
 『公儀事諸控』(四一—一五(6/17))の冊に、たまたま製本の時に綴じ忘れたと思われる丁が挟み込まれており、その紙片の片隅に丁数が墨で書き込まれていることがわかった。また、現在の冊子は、原表紙の有無から、元の冊が大部すぎるために分割製本されていると推定される。したがって、現在の冊子は元々の姿ではない。そこで、今回撮影のため綴じ紐をはずす機会を利用して、原本調査を行うことにした。
�『公儀事諸控』万治二年ヨリ寛文七年マデ(四一—一)
 縦二三・八センチ×横一六・五センチ
 原題:万治二ヨリ寛文七迄 御公儀事 内題:公儀事 二〇六丁 一冊
 料紙は、地と背が化粧裁ちされている。また、冊子にするために一紙の状も折って綴じ込んでいる。ノドの部分は、ぎりぎりまで字が書かれているところがあり、かなり裁断されていることがわかる。そのため、丁付の数字は、本来はあったようだが裁断されている。
 紐を通す穴は、全部で九カ所あいており、もとは真ん中にあいた大きい穴で貫かれていたようである。また、上下隅に二カ所づつ小さな穴があいている。現在は、上部と下部にあいた一対の綴じ穴で仮綴じされている。
�『公儀事萬記録』延宝八年(四一—二(2の2))
 縦二三・八センチ×横一六・九センチ
 原題:延宝八年 江戸公儀事萬記録 福原隠岐守在役 一七六丁 一冊
 表題は後補されており、原表紙が切り取られて現在の表紙に貼り付けられている。全体紙に皺がよっており、水をかぶったためと思われる。丁付の番号は裁断されているが、一部に残った番号を見ると、通し番号ではなく、まとまりごとに番号が振られている。すなわち、それぞれの項目で写を作り、それらを編年に直して合冊したものと思われる。なお料紙は化粧裁ちされており、残された穴も�と同様である。
�『公儀事諸控』天和三年(四二—三)
 縦二三・九センチ×横一六・七センチ
 原題:天和三年 公儀事控 一二八丁 一冊
 料紙は、小口を書くためにおおむね一、二ミリ、最大三ミリぐらい化粧裁ちされている。原表紙は渋紙で、「公爵毛利家文庫」と名前の入った赤枠のラベルが添付されている。その番号は、「(類)公儀事/(架)十七/(段)空白/(番)参/(冊)壱」である。このラベルは、分冊した冊子には貼付されておらず、史料の本来の形を復元する上で重要な情報である。なお、原表紙を切断して新表紙に貼付したものには、本来あったラベルも朱われている。ちなみに、(架)はすでに無意味な数字になっているが、(番)は生きており、(冊)は本来の総冊数として意味のある数字である。
�『公儀事諸控』享保八・九・十年(四一—七(37の13)(37の14)) 二冊
 この二冊は、本来一冊だったものを分冊したもので、原表紙は切断されて新表紙に貼付されているため、ラベルも失われている。この冊子の綴じ紐をはずして丁付の番号を確認したところ、(37の13)と(37の14)は必ずしも通し番号ではなく、(37の13)ですら一から始まらず、百三十四から始まる。したがって、(37の13)に紙片が一枚挟み込まれているが、本来の場所は不明であった。(37の14)の最終の丁付の番号は九百二十六である。
 これらの点を勘案し、また目次に丁付の番号がないことを考えあわせると、この史料は、典拠になる史料原本から作成された写を編成し直し、目次をつけて製本した清書本であると考えられる。  以上、偶然の事情で綴じ紐をはずした史料に関して原本調査した所見をまとめ、若干の推定を試みた。これらの点については、後日、全面的な調査が必要であろう。
 なお、末尾ではありますが、貴重な史料の特殊な撮影を許可して頂いた山口県文書館に心から感謝の意を表します。
 (山本博文・中藤靖之・小林 聡)


『東京大学史料編纂所報』第33号p.110