東京大学史料編纂所

HOME > 編纂・研究・公開 > 所報 > 『東京大学史料編纂所報』第24号(1989年)

京都府立総合資料館・京都大学図書館所蔵の近藤重蔵著「辺要分界図考」の調査

 平成元年三月二十二日より二十四日まで、京都府立総合資料館及び京都大学図書館において、近蔵重蔵の著書「辺要分界図考」の写本の調査をおこなった。
 京都府立総合資料館は二部を所蔵する。
 一、四冊本(特456—20)第一冊巻之一、第二冊巻之二・三、第三冊巻之四・五、第四冊巻之六・七。
 題簽は「辺要分界図考」(以下各冊同じ)。表紙の裏に「京都府図書館」「独□(斎カ)架蔵之記」「明治三十二年十一月廿日購入」(附点の数字は朱の書込)の各朱方  印を捺す。第一紙は重蔵の序で、右下すみに「博愛堂図書記」の朱方形の蔵書印があり、幕末明治の篆刻家長谷川延年の旧蔵書であることを示している。文字、挿絵、地図ともに非常に精緻で色彩も豊富、ロシア人・山丹人・アイヌ人等の風俗を示す衣服の模様なども詳細に描きわけてある。動物・植物・諸道具類・風景等も同じで、特に遠山の点苔や近景の秋草など描写の技術も抜群で、専門画家の、それもかなり名手の筆になるものと思われる。第四冊の末尾に「嘉永七年甲寅歳三月望 書写校合畢 楓洞延年(朱方印)」の奥書がある。
 二、七冊本(特970—6)。第一冊壱より第七冊七に至る。
 題簽は「辺要分界考」と図の字を欠く。表紙の裏に「購入大正三・四・二四」の朱円印と「京都図書館印」の朱方印を捺す。筆写の文字は下手で、挿絵もいかにも拙劣であり、原本の描写するところの意味を理解していないため、細部を塗りつぶし、ごまかすようなことをしている。図の題名や説明をあちこちで省略している。校合の場合などには参考にならないものである。
 京都大学図書館は三部を所蔵する。
 一、八冊本(5—83.ヘ.1) 紺色の表紙。題簽はなく、各冊の右下スミに朱書で第一冊「巻之一」より第七冊「巻之七」、第八冊「附録終」と記す。
 文字、地図、挿絵すべて墨一色であるが、描線は明確、描写は精細で、府資料館四冊本につぐ善本である。附録は山村昌永の「采覧異言増訳」を収録したものである。
 二、七冊本(5—83.ヘ.2) 第一冊一より第七冊七に至る。第一冊の表紙の裏に旧題簽「辺要分界図考一二三天」、第四冊に同じく「辺要分界図考四五地」、第六冊に同じく「辺要分界図考六七八人」が貼付してある。
 もとは三冊本で近時改装されたものと思われる。地図・挿絵ともに墨に淡墨を加え、ところどころに朱を入れている。絵は府資料館七冊本に似て稚拙である。
 三、六冊本(谷村文庫5—81.ヘ.) これは同館所蔵の特殊文庫「谷村文庫」に収められているもので、貴重書扱いのため出張日程の都合で閲覧出来なかった。同文庫目録には「〔江戸末期〕写 六冊 二十七・五� 巻二・三ニ落丁錯簡アリ」と記載されている。なお、重蔵の著「御本日記附註 御本日記続録 御写本譜附慶長勅版考」(三冊一帙)が所蔵されており、一覧した。
 (鈴木圭吾)


『東京大学史料編纂所報』第24号p.125