東京大学史料編纂所

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所報―刊行物紹介

大日本史料 第七編之二十一

本冊には、称光天皇応永二十一年十二月十三日から年末まで(是冬・是歳を含む)の史料、および同年の雑載を収めている。
綱文のたつ期間は約半月で極めて短いが、この十二月十九日に称光天皇の即位大礼が行なわれる。従って、前冊の七編之二十を含めて、この前後にはこれに関する記事が多い。例えば、当日、太政官庁における即位式の状況(十九日条)、およびこれに伴なう神祗官(十三日条)・太政官庁(十八日条)への行幸とか、即位叙位(十五日条)、また即位段銭(十九日条)について詳しく述べられている。
 つぎに、是歳の条に「摂津大念仏寺良鎮、融通念仏縁起絵巻ヲ作成シ、後小松上皇ノ宸翰ヲ奏請ス、又、堯仁法親王等ニ詞書ノ書写ヲ依頼ス」との綱文を立て融通念仏縁起を扱っているが、これは本冊において注目すべき記事である。現在、重要文化財に指定されている京都清涼寺所蔵のものを収載し、特に後小松上皇宸筆等をコロタイプ図版にして挿入した。
 また、以前から続いている日朝関係について、応永二十一年の状況を是歳の条に載せる。将軍足利義持は、使僧を朝鮮に派遣し、大蔵経や洪鐘を求めている。
 最後に、年末雑載(災異、神社、仏寺、死歿・疾病、学芸、荘園・所領、年貢・諸役、訴訟、契約、譲与・処分、寄附、売買、雑の項をもつ)を収めてある。災異だが、この年には鎌倉建長寺(十二月二十八日条)や尾張熱田社等が火災にあっている。つぎに神社・仏寺の項では、最近の地方史料の発掘や地方史研究の進展に対応して、金石文や印信の類が多く載せられる傾向にある。荘園・所領の項では、東寺領や東大寺領の代官職請文等が含まれており、このころ多くなった年貢請負制の実態が窺われ、荘園制解体過程において、中央大寺杜が特に遠隔地所領支配にいかに対応したかを知るのに興味深い。この傾向は次の年貢・諸役の項において一層確められるが、この項では播磨国矢野荘など東寺領関係の年貢散用状を多く掲げる。東寺百合文書の散用状と教王護国寺文書のそれとは内容的に対となっているもの多く、合わせると、当時の年貢・公事の種目や枡についての地域的特徴を読み取れる。 担当者 新田英治・山口隼正 (目次四頁、本文三九九頁、挿入図版三葉)


『東京大学史料編纂所報』第8号p.50