18世紀オランダ東インド会社の遣清使節日記の翻訳と研究

東京大学史料編纂所共同利用・共同研究拠点 一般共同研究 2020年度
18世紀オランダ東インド会社の遣清使節日記の翻訳と研究

本研究の趣旨

 オランダ東インド会社は、清朝との貿易を実現・改善するため、何回か使節団を派遣しているが、そのうち、1794~1795年の乾隆帝の在位60年を祝う使節団は、有名なイギリスのマカートニー使節団との対比の上でも重要である。正使は、日本商館長を務めたイザーク・ティチングであった。しかし、ティチング使節団の残した記録は、ティチング自身によるオランダ語の日記のほか、副使ファン・ブラーム・フックへ―ストによるフランス語の日記、さらに通訳として同行した学者ド・ギーニュによるフランス語の日記があり、最低限でもオランダ語とフランス語の読解力が必須である。さらに、それらの日記を理解するためには地名・人名・官名を含む当時の中国についての広範な知識をも必要とするため、今まで日本語に翻訳されたことはなかった。今回、中国史研究者(大野/漢文史料、Blussé/オランダ語史料)、オランダ語史料の翻訳実績を持つ史料編纂所海外2室の教員が、在野の翻訳者に協力する形で、この課題に挑む。

 本研究では、ティチングによる日記(ライデン大学所蔵、Frank Lequin氏が2005年に翻刻をIsaac Titsingh in China (1794-1796), het onuitgegeven Jounaal van zijn Ambassade naar Pekingとして刊行、ライデン大学中国学教授Duyvendak氏が戦前に英訳)およびド・ギーニュの日記(Voyages a Peking, Manille, et l’’Isle de France, faits dans l’intervalle des années 1784 a 1801として、1808年刊行)を現代日本語に翻訳して、注を付して刊行することを目的とする。

メンバー

所外共同研究員

大野晃嗣(代表者/東北大学文学部教授)、森田由紀(翻訳家)、Leonard Blussé(ライデン大学名誉教授)

所内共同研究者

松方冬子、大東敬典

活動報告

2021年3月27日、オンラインで、第2回研究会を開催しました。

(参加記)
 コロナ禍によって対面での研究会が制限される中、これまでは、森田さんが準備をされた翻訳の草稿に対して、各人が修正点・疑問点を書き込みながら、その翻訳の精度向上をはかってきました。
 今回の研究会では、「1794年11月26日付ティチングからネーデルブルフ宛の書簡」を対象に、翻訳のブラッシュアップをリアルタイムに進めました。翻訳の統一方針といった基本的な事項、例えば指示語をどの程度まで指示語のままで残すかといった事柄から、主語が欠落しているオランダ語文章のニュアンスを、日本語にどのように置き換えるかといった具体的な課題まで、緻密な討論がなされました。松方先生、大東先生、イザベル先生、森田さんというオランダ語文献を自由に読みこなすことのできる方々が、こだわりを以て翻訳を定めていかれる様は、語学的には全く貢献できない私にとっても本当に刺激的で勉強になりました。個人的には、頻出するSjapという用語について、どのような日本語に翻訳するかに悩んでいます。清朝の総督・巡撫が任地にあって、いわば「皇帝の代わり」として儀礼に「龍牌」を使用することは、大清會典に見えるところですが、当該用語が本日記中で多様に使用されていることからみれば、語源的な問題も含めて、残念ながら私の知識は不十分であると痛感しています。儀礼の実態の解明は、中国史を学ぶものにとって常に困難を極める課題ではありますが、ティッチングが相当関心を持って大小様々な儀礼を描写していることは間違いなく、その意味で翻訳に生彩を与える一つの鍵となるでしょう。一層理解を深めて翻訳に取り組みたいと思っています。
 終わってみれば、丸一日をかけての作業となりましたが、パソコンの画面越しとはいえ、やはり対面に近い環境での討論は有意義で、こういった作業には必要不可欠であると感じました。コロナの状況が落ち着かない限り、今後も同様の作業手順を踏むしか他ありませんので、予めどのような準備を翻訳データに施しておけば、このような限られた時間で行う作業をより効率的に行うことができるのかといった現実的な方法を検討することもできました。これも今回の研究会の重要な収穫であったと思います。これからも翻訳の公刊という大きな目標に向かって、一歩一歩進んで行きたいと考えています。

(文責:大野晃嗣)

2021年3月27日オンライン第2回研究会


2020年9月25日、オンラインで、第1回の研究会を開催しました。ラインアップは下記の通りです。

大野晃嗣(東北大学)「清朝の官僚機構―ティチングの日記と乾隆期―」
熊谷摩耶(日本大学研究員)「マカートニー使節団の諸記録」

 ティチングの遣使日記を理解するために必要な中国史の知識と、ティチングの前年に中国に派遣されたイギリスのマカートニー使節団の諸記録について、ご報告をいただきました。専門外の人間にもわかりやすい簡潔で明快なご報告で、今後の翻訳に大いに資することと思います。

(文責:松方冬子)

オンライン第1回の研究会を開催


(本ページの無断転載を禁止します。)

松方 冬子(まつかた ふゆこ) 東京大学 史料編纂所 教授 博士 (文学) Professor,the University of Tokyo Ph.D.(the University of Tokyo, 2008)

インタビュー記事

ブックレット

主要研究業績

販売書籍

  • 一九世紀のオランダ商館 上(東京大学出版会)
  • 国書がむすぶ外交(東京大学出版会)
  • 日蘭関係史をよみとく 上巻:つなぐ人々 下巻:運ばれる情報と物(臨川書店)
  • オランダ風説書と近世日本(東京大学出版会)
  • 別段風説書が語る19世紀 翻訳と研究(東京大学出版会)
  • オランダ風説書「鎖国」日本に語られた「世界」(中央公論新社)

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