18世紀オランダ東インド会社の遣清使節日記の翻訳と研究

活動報告

2022年6月1日(水)東京大学史料編纂所にて第1回フランス語翻訳検討会を開催しました。

 フランス語組(野澤、フォスティーヌ、森田)最初の対面顔合わせを兼ねて、検討会を開催いたしました。大東、松方も参加して、今後の検討作業の方針について話し合いました。


一般共同研究「18世紀オランダ東インド会社の遣清使節日記の翻訳と研究」の成果として、森田由紀訳、松方冬子、イサベル・田中・ファンダーレン、大東敬典校閲、松方冬子解題執筆「オランダ東インド会社総弁務官宛遣清使節イザーク・ティチング書翰」(『洋学』29号、2022年5月)が刊行されました。


2022年4月28日(木)翻訳検討会を開催しました。

オランダ語組(イサベル、大東、松方、森田)がメインでしたが、フランス語組(野澤、フォスティーヌ/オンライン)もオブザーバー参加しました。レクイン本68~77頁を対象に、4時間みっちりと討議を行いました。


2022年度からは、史料編纂所共同利用共同研究拠点特定共同研究(『本所所蔵在外日本関係史料の多角的利用のための翻訳研究』(略称モンスーンII、2022~2025年度)の一環として活動を継続することになりました。


2022年3月22日(火)オランダ語組(イサベル、大東、松方、森田)で今後の検討作業の方針について話し合いました。


2022年3月4日(金)オンラインで、第4回研究会を開催しました。

お仕事の都合で参加できなくなった世川さんのかわりに、野澤丈二さんを新メンバーとしてお迎えすることができました。田中峰人さん、新居洋子さんにもご参加いただき、第4回研究会を開催しました。ラインアップは以下の通りです。

 新居洋子「在華宣教師グラモン (Jean Joseph de Grammont、1736-1812) について」
 大東敬典「Tonio Andrade, The Last Embassy 書評」

第4回研究会(遣清使節日記)

(参加記)
 参加者の自己紹介後、新居氏による「在華宣教師グラモンについて」の発表があった。氏は「康熙遺詔」の数ある欧文翻訳の中で、ティチング旅行記に登場するフランス人宣教師グラモン(1736-1812)の翻訳が、時期、内容、欧州に渡った経路、学術雑誌に掲載された点などで特異であることを指摘し、他の翻訳と比較しつつ清朝における在華宣教師の情報発信と流通の状況を説明した。またグラモンの略歴を通じ、当時の在華宣教師を取り巻く環境が説明された。翻訳の背後にあったイエズス会内部の典礼論争、イエズス会崩壊の影響、国家と宗教的帰属意識の問題などの他、グラモンが清朝側の史料にほとんど登場しないこと、ダントル・カストー艦隊来航時にド・ギーニュとグラモンが協力して翻訳作成にあたったことなど、興味深い事実を学ぶことができた。また当時の在華宣教師の中でフランス人が特に熱心に情報発信をしたこと、フランス語の(欧米世界における)共通言語としての地位、レミュザ後のフランス中国学の台頭などにつき活発な議論が交わされた。
 続いて大東氏が「トニオ・アンドラーデ著The Last Embassy」の書評を特に序論と結論に焦点を当てて行った。「マカートニー使節団は東西文化衝突のため失敗に終わったが、ティチング使節団も中国側の要求に従ったものの何も成果をもたらさず失敗だった」という従来の見解に対し、アンドラーデ氏は、華夷秩序、朝貢システム、近代西洋の外交モデルなど、外交を捉える枠組み自体の再評価を主張し、ティチング使節団は乾隆帝の在位60周年祝賀のために派遣され、交流の促進自体を目的とする社交外交なので、この目的を達した使節団は成功だったとの見解を示している。
 これに対し大東氏は、オランダ東インド会社の外交文書を手掛かりに、アンドラーデ氏のアプローチを検討した。まずオランダ東インド会社の外交に関する自身の研究や史料(Contract Boeken) を紹介し、史料の持つ問題点も指摘した。さらにサンジャイ・スブラフマニヤム氏の研究に言及しつつ、既存の異文化論の枠組みの有効性の検証の必要性を指摘し、従来の「分かり合えない」という暗黙の前提に対する「大体分かり合える」概念の例としてペルシャ語の文書とオランダ語訳を挙げた。大野氏、ファンダーレン氏からは、アンドラーデ氏の文章は読みやすい一方、複数の文献に基づいて記述されており、出典の記載が厳密でないこともあって、内容の正確さに疑問をもった箇所があったとの指摘があった。さらに朝貢システムと互市システムの概念について論議が交わされ、松方氏からは外交において「人」と「手紙」のどちらを重視するかという観点からみると、当時の清朝は「手紙」を重視したとの発言があった。
 田中氏参加後、2025年度出版を目指す今後のスケジュール、タイトル案が説明され、翻訳の際の決まり事の調整と統一が必要である点が指摘された。

(文責:森田由紀)

2021年9月17日(金)オンラインで、第3回研究会を開催しました。

新メンバーとして、世川祐多さん、フォースティーヌ・ペイセレさんが加わり、以下の内容で行いました。
 報告:大野晃嗣「清朝の八旗と緑営―ティチングの日記の理解に向けて―」
 オランダ語の検討:ティチングの使節日記のうち1795年1月11日~14日条(Lequin本119~126頁)

第3回研究会(遣清使節日記)

(参加記)
 研究でも日々の経験でも、他者や他地域、他民族、他国家などを理解しようとする時には、人は自分の所属する地域や国家の慣例を基準に理解しようと努めると思う。しかし、その瞬間に「思い込み」による誤謬が起きる危険性がある。今回の研究会はそれを防止するための俯瞰の大切さを学ぶ機会になった。自明の理や完全無欠の学説と思われていることを、「思い込みかもしれない」と一度は疑って、冷静に吟味する重要性である。
 今回の大野先生のご発表の「清朝の八旗と緑営」では、旗とその旗の下に括られる人々を、軍隊と捉えるか否か、集権的と捉えるか分権的と捉えるかで論議があることが説明された。
 オランダ語翻訳の討議も、様々な研究領域から寄り集まる人間がいるからこそ、思い込みや誤訳・わかるようでわからない中途半端な訳をそぎ落とす作業となっている。
 さて、この研究会の構図は、ピラミッドではない。研究テーマも学歴等のキャリアもバラバラのバックグラウンドを持った人間たちの集まりである。たまたま、男女比がほぼ互角で、年齢もばらけている。
 もし、我々が旗を掲げたらどうなるのだろうか。旗があるとよくわからない統一感や強靭な一体感は出ると思う。しかし、ユーラシアの西から東、そして日本を研究や仕事の対象にして生きるバラバラの人間たちの緩やかな連合体としての雰囲気が示せなくなるかもしれない。モンスーンの風が吹くのに残念ではあるが、バラバラであることが許され忖度も上下もない緩やかな連合体たるこの空間には、旗がない方があっているなと思った。

世川祐多(パリ大学博士課程)

2021年3月27日、オンラインで、第2回研究会を開催しました。

(参加記)
 コロナ禍によって対面での研究会が制限される中、これまでは、森田さんが準備をされた翻訳の草稿に対して、各人が修正点・疑問点を書き込みながら、その翻訳の精度向上をはかってきました。
 今回の研究会では、「1794年11月26日付ティチングからネーデルブルフ宛の書簡」を対象に、翻訳のブラッシュアップをリアルタイムに進めました。翻訳の統一方針といった基本的な事項、例えば指示語をどの程度まで指示語のままで残すかといった事柄から、主語が欠落しているオランダ語文章のニュアンスを、日本語にどのように置き換えるかといった具体的な課題まで、緻密な討論がなされました。松方先生、大東先生、イザベル先生、森田さんというオランダ語文献を自由に読みこなすことのできる方々が、こだわりを以て翻訳を定めていかれる様は、語学的には全く貢献できない私にとっても本当に刺激的で勉強になりました。個人的には、頻出するSjapという用語について、どのような日本語に翻訳するかに悩んでいます。清朝の総督・巡撫が任地にあって、いわば「皇帝の代わり」として儀礼に「龍牌」を使用することは、大清會典に見えるところですが、当該用語が本日記中で多様に使用されていることからみれば、語源的な問題も含めて、残念ながら私の知識は不十分であると痛感しています。儀礼の実態の解明は、中国史を学ぶものにとって常に困難を極める課題ではありますが、ティッチングが相当関心を持って大小様々な儀礼を描写していることは間違いなく、その意味で翻訳に生彩を与える一つの鍵となるでしょう。一層理解を深めて翻訳に取り組みたいと思っています。
 終わってみれば、丸一日をかけての作業となりましたが、パソコンの画面越しとはいえ、やはり対面に近い環境での討論は有意義で、こういった作業には必要不可欠であると感じました。コロナの状況が落ち着かない限り、今後も同様の作業手順を踏むしか他ありませんので、予めどのような準備を翻訳データに施しておけば、このような限られた時間で行う作業をより効率的に行うことができるのかといった現実的な方法を検討することもできました。これも今回の研究会の重要な収穫であったと思います。これからも翻訳の公刊という大きな目標に向かって、一歩一歩進んで行きたいと考えています。

(文責:大野晃嗣)

2021年3月27日オンライン第2回研究会


2020年9月25日、オンラインで、第1回の研究会を開催しました。ラインアップは下記の通りです。

大野晃嗣(東北大学)「清朝の官僚機構―ティチングの日記と乾隆期―」
熊谷摩耶(日本大学研究員)「マカートニー使節団の諸記録」

 ティチングの遣使日記を理解するために必要な中国史の知識と、ティチングの前年に中国に派遣されたイギリスのマカートニー使節団の諸記録について、ご報告をいただきました。専門外の人間にもわかりやすい簡潔で明快なご報告で、今後の翻訳に大いに資することと思います。

(文責:松方冬子)

オンライン第1回の研究会を開催

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