モンスーン・プロジェクトⅡ

活動報告

2023年12月10日、筑波大学で開催された、東南アジア学会第105回研究大会で、パネル報告「オランダ東インド会社の「契約」から見る東南アジア」を行いました。

ラインアップは下記の通り。
  大東敬典「アムステルダム支部所蔵「契約集」について」
  冨田暁「両者の「合意」による「契約」―バンダ・アンボイナ・マラッカー」
  久礼克季「「命令」の形をとる「契約」―アラカン・シャムー」
  松方冬子「徳川政権とオランダ東インド会社―コメントとして―」
会場約20名、オンライン約20名の参加者を得て、活発な討論が行われました。

大東報告

冨田報告


左:大東報告  右:冨田報告

久礼報告

松方報告


左:久礼報告  右:松方報告

(文責:松方冬子)

2023年10月22日~30日、松方冬子がオランダに出張しました。

10月24日、ライデン大学で、Jurre Knoest氏の博士論文口頭試問に、副査として招かれて参加しました。初めての経験でしたが、同大学名誉教授Willem Boot氏にトーガ(アカデミックガウン)の借用など全般についてご助力いただき、無事に務めを果たしました。儀式的な色彩の濃い口頭試問ですが、学問の国際化の難しさを改めて感じさせる内容でした。事前に、「Mijnheer de kandidaat(英語で言えば、Mister the candidate)と呼び掛けてから質問をするように」と教わっていたのですが、当日、「Mijnheerは使わないように、Waarde kandidaat(Esteemed candidate)と言いなさい」という指示がありました。男性の試問官は座っているときは帽子を脱ぎ、立つときに帽子をかぶりますが、女性は終始かぶったままでよい等の礼儀作法も面白いです。コロナ禍以来、オンラインでの参加が可能になり、ハイブリッド設備のある部屋で行われるようになったそうです。

口頭試問が行われた部屋
口頭試問が行われた部屋 (academiegebouw内のgroot-auditorium)

試問官席
試問官席

終了後の記念写真
終了後の記念写真

10月25日、同じくライデン大学で、COGLOSS (Colonial and Global History Seminars) のセッションとして行われた、山本瑞穂さん(JSPSの研究員として渡蘭中)と橋本真吾さん(日本学士院の経費で渡蘭中)の研究報告会“Japan and the World”に参加しました。
報告内容は、以下の通り。
Yamamoto Mizuho,“The Unexpected Visitors: Outgrowing from the Framework of Bilateral Foreign Relationships.”
Hashimoto Shingo, “Crisis and Knowledge in Early 19th Century Japan: Otsuki Gentaku, Late Tokugawa’s Responses to Their Early Encounter with the US, and the Role of the Dutch People and Books.”

山本報告
山本報告

橋本報告
橋本報告


比較的小さなセミナールームでしたが、歴史学部のみならず、日本学関係者も含めた20人近い参加者を得て、大盛況でした。ライデンの研究者たちはシニアも若手も、日本の学術の次世代の担い手たちが自分たちと積極的に交流しようとしている様子に興味津々という印象です。とても温かく迎えられました。質疑応答でも、ライデンの若手から積極的な質問がなされ、「地域社会がヨーロッパの拡大をどう見ていたかについての(つまり「ふだん自分たちが見ている世界を逆から見た」)貴重な報告」という感想が寄せられました。日本史学にとっては当たり前の視点ですが、新鮮な印象を与えたようで、対話の可能性が大いにあると感じました。若い二人の英語報告は気負わず自然で、私の世代ができなかったことを実現してくれる次世代が育っていることに、誇りと喜びを感じました。長い蓄積のある同大学と日本の人文学との交流の歴史を土台として、今後さらなる交流が発展し、深まっていくことが期待されます。

その後、ライデン大学図書館職員のNadia Kreeft氏・同教授Catia Antunes氏・同名誉教授Leonard Blussé氏との研究打ち合わせ、デン・ハーグの国立中央文書館でティツィング遣清使節日記写本とカントン商館文書の調査を行いました。

(文責:松方冬子)

2022年6月24日、本PJ主催の国際研究集会「17-18世紀のインド洋 ―日本をめぐる海域史研究の広がりのために―(パートⅡ)」を、東京大学HMC、東京大学史料編纂所、維新史料研究国際ハブ拠点と共催で開催しました。

インド洋WS_2

Chaired by Travis Seifman
Introduction : Fuyuko Matsukata
Norifumi Daito “Rethinking the Dutch Decline in the Persian Gulf: An Analysis of VOC Shipping Lists (ペルシア湾におけるオランダの衰退再考:オランダ東インド会社作成船舶リストの分析)”
Discussant : Makoto Okamoto
Martha Chaiklin “Ivory in the Bay of Bengal (ベンガル湾における象牙)”
Discussant: Miki Sakuraba
Closing Remark: Fuyuko Matsukata


 2021年11月26日に開催されたパートⅠに続き、パートⅠと同じくZoomウェビナーによる完全オンライン、同時通訳付きで開催された。事前登録数154名、当日の参加者は88名(うち外国人34名)だった。
 日本史学においては、1980年代以降、14-18世紀の東アジア海域史が盛んになり、漢文史料の本格的な利用が始まった。その流れは田中健夫・村井章介など東京大学史料編纂所の研究者によって牽引され、豊富な成果を上げてきた。しかし、現在では、用いる史料・テーマなどの面で行き詰まり感が指摘されている。
 本研究集会では、東シナ海・南シナ海域(以下、シナ海域)と比較し、シナ海域と連関を明らかにするために、インド洋を視野に入れることを提案した。シナ海域とインド洋は、マラッカ海峡+スンダ海峡によって隔てられているとはいえ、そこで展開された活動は実際のところ互いに連動していた。また、インド洋史研究で行われている問題の立て方や、用いられている史料や手法は、シナ海域研究においても援用可能なものが多いと考えるからである。
 パート1が、法や儀礼など、政治・社会的なテーマに光を当てたのに対し、パート2では船の動き、貿易、消費文化といった経済・社会的な側面を扱った。
松方冬子による趣旨説明・登壇者紹介につづき、大東敬典氏が“Rethinking the Dutch Decline in the Persian Gulf: An Analysis of VOC Shipping Lists”と題して報告を英語で行った。大東報告は、サファヴィー朝衰退によりペルシア湾における砂糖貿易が衰退したとされていた従来の通説を批判し、オランダ東インド会社(VOC)文書「異国船リスト」の分析に基づいて、衰退したのはVOCであって、砂糖貿易ではないことを主張するものであった。それに対し、岡本真氏がコメント・話題提供を行い、日明貿易の研究においても史料を用いる際の注意点など、大東氏の研究との共通点を指摘した。
 休憩をはさんで、Martha Chaiklin氏が、 “Ivory in the Bay of Bengal”と題して、前近代から近代にかけてベンガル湾における象牙の生産と消費のあり方について包括的な展望を示した。それに対し、櫻庭美咲氏が17~18世紀シナ海域における磁器の流通について、詳細な紹介を行った。両氏の報告においては、豊富な図版が提示され、視覚的にも豊かな内容であった。
 最後に、1時間の総合討論が、Q&Aに寄せられた質問を司会のTravis Seifman氏が紹介し、登壇者が答える形で、活発に行われた。
 海外を含めた多くの参加者を得ることができ、新しい一歩を踏み出したという手ごたえを得ることができた。共催をいただいた諸機関にも、この場をお借りしてお礼申し上げる。

(文責:松方冬子)

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松方 冬子(まつかた ふゆこ) 東京大学 史料編纂所 准教授 博士 (文学) Associate Professor,the University of Tokyo Ph.D.(the University of Tokyo, 2008)

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