【文献案内】

サントリー美術館編『鼠草子絵本』

売店サントリー美術館、二〇〇七年四月)

(藤原重雄、『東京大学史料編纂所附属画像史料解析センター通信』40、2008年1月)

 本誌三三号で九州国立博物館編『きゅーはくの絵本』の一冊を紹介し、またいくつかの類例もあるが、美術館所蔵品の御伽草子の絵巻を絵本に仕立てたものである。帯に「絵巻に書かれたことばを現代語訳して、昔の人の絵巻の楽しみ方を再現しました。絵巻を読むように、絵本を楽しんでください。」とあるようなコンセプトを、うまく実現している。A5横長変形で横開き、ねずみ色のクロス装、全六八ページ。子ども向けの絵本というより、その体裁を借りたしゃれた図録といった趣きである。(反応を見るのにちょうど良い年頃の子どもが身の回り居ないので、そういった感想も知りたい。)

 対象となった作品『鼠草子』には画中詞が多く、登場人物(擬人化された動物たち)の名前も画面に書き込まれていることが特徴で、それらを吹き出しや題箋に置き換え(画面にはめ込み)、絵巻のほぼ全画面をカラーで収録する。詞書は大幅に圧縮して平易化し、大きな文字で振りがなを多めに施して、絵巻のように絵と交互に置く。ただし必ずしも原本の体裁には拘らず、絵の長い段では適宜場面を区切って文章を挿入している。原本の巻子装のメリットは詞書・絵の一段一段の長さが伸縮可能であることだが、ページごとに配するデザイン上の工夫もあったと推察する。原本の内容・性格もあるのだが、わかりやすさ・親しみやすさを追求するあまり原本を逸脱するようなことがない編集姿勢には、共感する。また、作品をダシに自分を語るあざとさもない。

 欲を言えば、画中詞が楽しい台所の場面だけでも、原文のままの図版が附録(あるいは見返しあたりにモノクロで)に入っておればよかった。あえて元の文字を隠したのだと思うし、凡例に小学館版『日本古典文学全集』で翻刻・現代語訳・全図を参照できることは注記してあり、和歌の場面では仮名文字と照らし合わせることができるが、この絵本を手にすることで、筆で書かれた昔の文字を自分で読んでみようという気になる読者が、きっといるだろうから。


東京大学史料編纂所古代史料部藤原重雄論文目録