研究計画 of 協調作業環境下での中世文書の網羅的収集による古文書学の再構築プロジェクト

要旨

協調作業環境のモデルシステムとして開発された「鎌倉遺文バーチャルラボラトリ」の運用にもとづく問題点の検討を踏まえて、東京大学史料編纂所が提供する「日本古文書ユニオンカタログ」「古文書フルテキストデータベース」「奈良時代古文書フルテキストデータベース」「平安遺文フルテキストデータベース」「鎌倉遺文フルテキストデータベース」を土台として、古文書研究の協調作業環境を構築し、運用に基づいてシステムの評価を行うとともに、同システムを利用して古文書学を帰納的に再構築する方向を示す。

2009年度の計画

a.東京大学史料編纂所附属前近代日本史情報国際センターが、2006・2007 年度に国立情報学研究所よりの委託事業として開発した「鎌倉遺文バーチャルラボラトリ」を、東京大学・早稲田大学・東北大学・名古屋大学・広島大学に所属する分担研究者を中心に運用し、仮想研究空間運用に関わる諸問題を検討するとともに、システムの改善すべき点を検討する。

b.古文書研究の協調作業環境をネットワーク上のバーチャルオーガニゼーションとして構築するためのシステムの基本設計を行う。留意点は次の通り。

1.2008年度までに史料編纂所歴史情報システム(SHIPS)上で実現した次の2 つの利点を最大限に活用する。
第一に、「日本古文書ユニオンカタログ」において、古文書関係各種データの統合を実現した点である。「日本古文書ユニオンカタログ」は、古文書の目録データを中心に、「古文書フルテキスト」「奈良時代古文書フルテキスト」「鎌倉遺文フルテキスト」「平安遺文フルテキスト」の各フルテキストデータベースおよび画像データ(影写本・謄写本画像および史料編纂所出版物画像)にリンクしている。
第二に、「鎌倉遺文バーチャルラボラトリ」によって、テキスト編集のための協調作業環境を実現した点である。このシステムでは、単にネットワーク上でさまざまな古文書のフルテキストを編集するだけではなく、編集したユーザ情報、日付、以前の内容との差分、編集に関するアノテーションなどの情報を共有することが可能であり、また、史料編纂所だけではなくネットワーク上のユーザがシステムに参加することが可能であるため、史料編纂所の内と外のインターフェースの役割を果たしている。

2.「鎌倉遺文バーチャルラボラトリ」で扱うに、「鎌倉遺文フルテキスト」とともに「日本古文書ユニオンカタログ」を加える。これにより、同システムを「フルテキストのみを対象とした編集システム」から「古文書に関する各種データを対象とした編集システム」に発展させる。
 上記の2点に留意すると、SHIPS の改善事項として以下の諸点が想定される。
1.「日本古文書ユニオンカタログ」に格納されている古文書に関するデータを「鎌倉遺文バーチャルラボラトリ」に取り込むシステム。これにより、「日本古文書ユニオンカタログ」で実現している機能と組み合わせることで、単に古文書の目録データだけではなく、「古文書フルテキスト」「奈良時代古文書フルテキスト」「鎌倉遺文フルテキスト」「平安遺文フルテキスト」のフルテキストデータおよび画像データの参照が可能になる。
2.「鎌倉遺文フルテキストデータベース」および「日本古文書ユニオンカタログ」が、「鎌倉遺文バーチャルラボラトリ」に集約された投稿データを参照し、チェック・編集の上でアップロードするシステム。
3.「鎌倉遺文フルテキストデータベース」および「日本古文書ユニオンカタログ」における追加・修正を集約してユーザに対してわかりやすく表示するシステム。データの修正が簡便に行えるのが電子システムの長所であるが、一方で特定時点でのデータを固定保存し、それを基準としてその後の追加・修正箇所を明示することが、データの信頼性を担保するために必要である。
4.「日本古文書ユニオンカタログ」「古文書フルテキストデータベース」「奈良時代古文書フルテキストデータベース」「平安遺文フルテキストデータベース」「鎌倉遺文フルテキストデータベース」等の古文書関係データベースを横断検索するインターフェースの開発。このインターフェースでは、対象となる各種フルテキストデータベース間におけるデータ構造の差異を吸収し、統合した検索結果を得ることができる。

 上記の想定はあくまで現段階におけるものであり、実際の基本設計はa による現行システムの運用を踏まえ、東北大学・早稲田大学・名古屋大学・広島大学に所属する研究分担者を中心とする広い範囲の研究者の意見を集約して策定する。そのために、システム・プログラミング以前の基本設計に1年間をかける。

2010年度以降の計画

 2010年度における基本設計にもとづき、システム・プログラミングを行い、構築されたシステムを運用し、評価する。2010年度~2012年度の各年度の課題を段階的に以下のように想定する。

2010年度:システム・プログラミング、実装、検収。
2011年度:システム・プログラミングの追加と運用。
2012年度:システムの運用と修正、評価。次期課題の整理。

 最終年度において次期課題の整理を掲げているのは、本研究の課題が5年で果たせるものではないからである。一例をあげれば、本プロジェクトは数十万点におよぶ1600年以前古文書のすべての釈文を共同研究の形で実現することを意図しているが、それが5年でできるわけではない。

 しかし鎌倉時代については『鎌倉遺文』をもとにして大枠を作ってしまおうという計画である。
 したがって、本プロジェクトはシステムとしては1600年以前の古文書すべてを対象とするものを作るが、コンテンツとしては特定の部分に集中しながら、他の部分にも目配りして、次期の計画に備えることを意図している。