概要
案内 史料編纂所所蔵荘園絵図摸本データベース
本データベース利用上の留意点とヒント(2002年3月)
緒言
東京大学史料編纂所が所蔵している絵画史料の模本のなかで、荘園絵図及び寺社境内図の模本は、質量ともに卓越した存在である(両者を合わせて、以下、「荘園絵図模本」と称する)、それらは現在、約80点内外を数えるが、あわせて本所には、近年、西岡虎之助氏蒐集荘園絵図模本コレクションも寄託されるにいたった。両者を合わせると、主要な荘園絵図の過半を、模本で閲覧できる状態にある。
現存する荘園絵図について本所は、原本を撮影した大型フイルムから良質な図版を作成し、『日本荘園絵図聚影』として刊行してきたが、それによってこれらの「荘園絵図模本」の価値が減じたわけではない。なぜならば、「荘園絵図模本」のなかには、すでに原本が失われていたり、激しく劣化してしまったものが少なくないからである。
しかし、「荘園絵図模本」は、その形状や大きさの制約から、並べて比較することなどは難しく、利用は限られていたと言わざるを得ない。絵図に関心のある全国の研究者や市民にとって、もっと便利でしかも役立つ閲覧方法の実現が待たれていたのである。本デ-タベ-スは、そうした期待に応えるべく構築されたものであり、以下のような特色と特長をもっている。
① 本デ-タベ-スでは、高精細画像閲覧システムを導入する。これによって、肉眼で観察するよりもはるかに荘園絵図細部の観察が可能になった。
② 原本の採寸・計測値などの原本情報や釈文を示すなどして、荘園絵図研究の基礎的デ-タが用意されている。荘園絵図に関する研究論文や調査報告書に関する情報を検索可能にした。これによって、当該絵図の研究状況がただちに追跡可能になる。
③ 実験的な試みとして、荘園絵図の構図や図様・図像などを文章化して、画面情報とした。この画面情報として記述された文章の任意の語句によって、荘園絵図の表現を自由に検索することができる。自分なりの工夫による検索を繰り返すことによって、多角的な絵図分析・読解を試みることができるはずである。
荘園絵図研究は、これまでも着実に研究が積み重ねられてきたが、本デ-タベ-スは、全国・全世界で閲覧可能である。荘園絵図論の新しい広がりが生まれる可能性があると言えるのではあるまいか。皆さんの活用を期待したい。
凡例
Ⅰ.本データベースは、2000(平成12)年度~2001(平成13)年度科学研究費補助金 基盤研究(B)(2)「荘園絵図史料のデジタル化と画像解析的研究」(課題番号 12410087 研究代表者黒田日出男)の成果によるものである。また、これ以外に、2001(平成13)年度科学研究費補助金(COE形成基礎研究費)「前近代日本史料の構造と情報資源化の研究」(課題番号12CE2001 研究代表者石上英一)からも一部経費の補助をうけている。
Ⅱ.本データベース上で公開の情報は、下記のとおりである。
① 絵図模本画像
既に公開している肖像画模本データベースにおいては、対象史料が比較的小型であるため、35㎜フィルムからProphotoCDを作成し、これをJPEG形式に圧縮(150KB程度)することで公開に供している。しかしながら模写絵図の場合、その法量はかなり大型であり、かつ絵図の特性上、細かい文字が多数記載されている。こうした絵図史料を研究の現段階に対応したレベルで情報化するためには、4×5インチのフィルムにて撮影し、微細な文字が判読可能なレベルでの高精細スキャンニングを行った。このため作成されたデータは数百メガを越える容量となり、高精細画像閲覧システムの導入が不可避となった。本DBでは、費用対効果およびウェブへの対応能力などから、Rizardtech社の提供するMrSIDを採用し、一般に画像を発信している。sidファイルは、大容量のファイルを数十分の1に圧縮した保存形式をとり、一般の回線でも短時間に情報を閲覧することが可能である。クライアント側においても、同社が無償で提供するプラグインをダウンロードすれば、コンテンツを閲覧することができる。なおプラグインのダウンロード方法・諸機能などについては、同社の提供する情報をご参照いただきたい。
② トレース図
これまでの絵図研究で使用されてきたトレース図の場合、その多くが研究者自ら作成したものであり、精粗も出来もまちまちであった。一定の規格にもとづいた上質のトレース図を学界に提供することは不可欠であるとの認識から、本DBにおいては優れた模写技術を持つ日本画家に依頼して製作している。トレース図は、『日本荘園絵図聚影』に収録されたA3大の図版から、トレース紙と数種類の墨をもちいて作成したものである。図版作成には日本画家の木下千春・柏谷明美・磯部光太郎・竹本直美・荒井経の各氏が当たられた。
③ 原本実測図
本データベースは模本を対象とするものであるが、法量データについては原本の調査成果を付加する必要があると考えた。なぜなら模本の場合、その図像・文字については緻密に写されているものの、全体の法量や紙継ぎまでを厳密に復元するものではない。そこで絵図研究グループがこれまで蓄積してきた調査情報から原本実測図を作成し、関連情報として付加することとした。
④ 管理情報(書誌情報)
絵図模本の管理情報(書誌情報)は、下記項目について記してある。史料編纂所所蔵史料目録(HI-CAT)にある情報をもとにしながら、足りない情報は調査のうえで付加した。
- 【架番号】 史料編纂所図書部における架番号。閲覧の際の請求番号である。
- 【名称】 所蔵台帳に記載された名称。
- 【模写時所蔵】 模写が行われた際の原本所蔵者を示す。必ずしも現蔵者とは一致しない。
- 【縦】【横】 模写絵図の法量を示す。
- 【聚影巻数】【番号】 模写絵図の原本図版が史料編纂所編『日本荘園絵図聚影』のいずれの巻・番号に収録されているのかを示す。
- 【国名】 模写の描く荘園がどこに相当するのか旧国名を示す。なおあわせて現在の都道府県について相当するものを注記した。
- 【模写年代】 史料編纂所において模写のなされた年次を記す。
- 【原本制作年代】 模写絵図の原本が制作された時代を示す。なお図中に制作年紀が記されているものについては、これも注記した。
- 【模写者】 史料編纂所において模写を行った者を記す。
- 【材質】【著色】 模写絵図の材質・著色を記す。
⑤ 釈文情報
絵図に記されている文字について、その翻刻を行った。テキスト形式による史料表記方法については入来院家文書プロジェクト(画像史料解析センタープロジェクト)が示した方針にしたがった(『入来院家文書CD-ROM』紀伊國屋書店、1999年)。なお③のトレース図と対照が可能となるように、トレース図内の位置と番号を付してある。
⑥ 画像情報
描かれた図像を文章化し、語彙から絵図を検索可能にすることを目的とした情報である。あくまで構図や描かれた図様について適切な文章で表現することを目指した実験的な試みであり、任意の語彙から絵図を検索可能となるように意図した。表現の正規化などにおいて依然課題は残るものの、大きな可能性を持つ情報であると考えている。なお同情報から使用頻度の高い基本語句を析出し、一覧としてDB検索画面に付加し、検索に便となるように図った。
⑦ 文献情報
荘園絵図関係論文をデータベースソフトに入力し、個別の絵図ごとに基本文献が表示されるよう配慮したものである。なお絵図の図版および解説を収録する地方史誌類ならびに発掘報告書などについても、管見のかぎりでデータ化を進めた。
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