第7回 史料学セミナー 講義概要


第1回 10月5日(土)


山口英男 「尾張国郡司百姓等解をめぐって」
尾張国郡司百姓等解(尾張国解文)は、永延二年(九八八)十一月、尾張守藤原元命の非法濫行を訴えその罷免を求めて、尾張国郡司百姓等の名で朝廷に提出された文書です。受領(ずりょう)による当時の地方支配のあり方を伝えるだけでなく、貴族と受領の関係、財政制度、経済や社会を知る上で基本となる史料の一つで、高校の日本史教科書にも必ず取り上げられています。史料編纂所は、現存する尾張国解文の写本のうち二番目に古い古写本を所蔵しています。本講では、史料編纂所本の内容について紹介するとともに、尾張国解文をめぐる研究動向について、平安時代史研究の新たな潮流と絡めながらお話します。


保谷徹「幕末の軍事外交史料」
外務省引継書類(旧外国奉行所史料)をはじめ、欧米の外務省・海軍省史料(在外日本関係史料マイクロフィルム)など、本所が所蔵する幕末維新期史料の中から、幕末の軍事・外交にかかわる具体的なテーマを取り上げて論じるものとする。

第2回 10月19日(土)


橋本政宣 「近世の二条家日記群」
近世の公家日記は伝存するものの多くが原本としてであり、古代・中世の日記の場合に比し写本の割合は少ない。五摂家の一つ二条家に伝来した当主日記は、康道・綱平・治孝・斉信の四代の日記であるが、いずれも原本であり、いずれも未紹介のもの。近年、これらの全てが本所の有に帰した。これらの概要について述べ、とくに朝幕関係の重要記事を多く含む『康道公記』寛永十二年(1635)について講読する。


山家浩樹 「禅院文書の流出とその復元」
単品として所蔵される文書を研究対象とする場合、本来の伝来先がわかると情報量は増える。中世の武家発給文書ならば、禅宗寺院に伝来した可能性がある。貴重書や影写本等を素材に、失われた禅院文書群を復元し、文書群として検討したい。

第3回 11月2日(土)


馬場章「後藤四郎兵衛家の三家業―彫金・大判座・分銅座」
室町時代の後藤祐乗以来の由緒を有する後藤四郎兵衛家は、三所物など刀装具の彫金を主たる家業とし、その作風は御家彫りと称されてきました。しかし、後藤家の家業は彫金にとどまらず、江戸時代には大判や分銅の鋳造を主宰して、幕府の特権的な職人の地位を占めました。彫金・大判座・分銅座という後藤家の三つの家業にかかわる史料は史料編纂所などに所蔵され、これまで個別に研究されてきました。それらの史料を総合するとともに、現在残されている作品の調査を踏まえて、後藤四郎兵衛家の実像に迫ります。


山田邦明 「戦国大名の書状」
戦国動乱の時代、大名たちは日常的に多くの書状をしたためていた。戦争にかかわる指示が多いが、文面は詳細かつ具体的である。また紙の大きさや折り方、封のしかたなども多彩で、形をみるのも面白いし、筆跡の分析によって右筆の活動をとらえることもできる。ここでは栗林という家臣にあてられた上杉謙信の書状を中心に、戦国大名の書状の内容と形式に迫ってみたい。

第4回 11月16日(土)


五野井骼j 「キリシタン史料とコンフラリア(信心会)」
コンフラリアConfrariaは、信心会とも、兄弟会とも言われ、正確にはConfraria de Misericordia 慈悲の所作を実践するキリシタンの信心会(組)となる。 日本におけるコンフラリアについての史料は多くはないが、現存するイエズス会、フランシスコ会、ドミニコ会の史料の紹介を通じて、その組織や活動等について見てみたい。


阿部晶彦・末柄豊  「古記録―実隆公記の修復」
実隆公記平成7年に、室町時代の公家三条西実隆による自筆の日記『実隆公記』が国の重要文化財に指定された。翌平成8年から10ヶ年計画で国庫補助事業による修復作業が京都国立博物館文化財保存修理所において始められ、昨年度で5ヵ年分が完了した。
本講義は、まず実隆公記を書誌的に分析する。そして紙の分析や補修紙の作成を含んだ修復の作業工程について順を追って説明する。また取り扱いについても説明する次第である。

後藤家文書・キリシタン史料・実隆公記につきましては、Web上で紹介ビデオをご覧いただけます。こちらへどうぞ。

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