研究会概要

■ 第1回研究会

期日:2014年2月21日/場所:東京大学史料編纂所

報告Ⅰ これまでの成果と今後の課題……遠藤基郎

2012年4月よりの約2年間の進行状況について説明するとともに、院政期・鎌倉後期・室町中期・織豊期のいくつかの文書事例をとおして、現在の東大寺文書の整理状況の特質を紹介した。[PDF]

報告Ⅱ 寺外分東大寺文書の現況と今後の可能性……守田逸人

主に明治以降、寺外に移った東大寺文書をめぐる研究史を整理するとともに、明治における文書移動の実態をさぐる可能性を論じた。

報告Ⅲ 東大寺図書館所蔵記録類の解題的研究の成果……畠山 聡

東大寺図書館所蔵の記録部141・142架のうち中世関係のものについて、その概要を紹介した。多くは永正5年(1505)の講堂・三面僧房焼失後のものであることなどを指摘した。

報告Ⅳ 鎌倉前中期における東南院主と東南院領の変遷……小嶋教寛

東大寺東南院主は鎌倉期を通して、近衛・鷹司流藤原氏の子弟が独占した。その契機となった道快の東南院主継承について当時の政治情勢を踏まえ以下の点を論じた。①東南院領は重源より譲り受けものが多いが、道快就任以前にすでに寺内外に流出していた。②仁和寺道深は母北白河院の後援を受けて院主を狙うが、荘園のさらなる寺外流出を恐れた東南院衆徒の反対にあった。興福寺衆徒がともに強訴を起こしたため道深は院主就任を断念した。③東南院衆徒は意中の院主候補がいたが、北白河院や院に近い東大寺僧の干渉により断念。かわって関白藤原(近衛)家実のおいで、かつ宣陽門院に近い道快を院主に迎えることで、その政治権力を背景に、東南院の権益を守ろうとしたと思われる。

■ 第2回研究会

期日:2015年2月20・21日/場所:東京大学史料編纂所

報告Ⅰ 黒田荘史料集の編纂を終えて―成果と課題―……小原嘉記

2015年3月刊行予定の『三重県史』資料編(古代・中世)編集担当の経験から、黒田荘関係史料の時期毎の文書分布、伝来元の分布などの特徴を概観した。また院政期保安年間の返抄類について国衙行政論の観点から論じた。

報告Ⅱ 薬師院文書「東大寺年中行事」から見る東大寺の財政……三輪眞嗣

鎌倉後期の「東大寺年中行事」を東大寺財務の観点から論じた。主要財源は、諸荘園・鎮西米・寄進田に分類される。特に鎮西米については、古代以来の封戸財源と、財務運用上、明瞭な継承関係があることを指摘した。

報告Ⅲ 東大寺文書出納日記の復原的考察……森 哲也

印蔵よりの文書出納簿である出納日記は、本来続紙であったが、糊剥がれにより散逸状態にある。院政期から鎌倉後期にいたる事例の網羅的な復原案を提示した。
*なお同復原案はユニオンカタログDBにおいて公開の予定である。

報告Ⅳ 南北朝・室町時代における東大寺学侶方の経済活動について
               ―学侶僧の借銭活動を通して―……畠山 聡

南北朝・室町前期の東大寺の組織を、荘園と学侶方の関係から検討した。鎌倉後期より、荘園他の所職は有力寺僧の請負となるが、南北朝期以降彼らの経営は行き詰まりがちとなり、年貢未進をさけるため、学侶方から借銭によってこれを補う。しかしその返済は焦げ付き、所職は債権として学侶方に集積される。この他未進による所職没収などで学侶方の財力は拡大する。東大寺全体における存在感を高め、諸仏事助成や修造費用を賄った。

報告Ⅴ 室町期東大寺衆中の特質
             ―学侶方の位置付けを起点として―……西尾知己

鎌倉期の衆中は、年預五師を中核とする「惣寺」に主導性があったが、室町期には、「学侶方」に主導性が移るのではあるまいか、という見通しの元、学侶方・惣寺方それぞれについて検討を加えた。①この時期は、学侶方の組織・機能・経営基盤の整備・拡充が確認されること、②南北朝期後半の強訴消滅によって、惣寺方のプレゼンスが低下すること、などを示し、この時期が東大寺「衆中」の転換点であることを指摘した。

■ 公開研究会 これからの東大寺文書研究のために

基盤研究(B)「復元的手法による東大寺文書研究の高度化―『東大寺文書目録』後の総括・展望―」グループ(代表遠藤基郎)・日本古文書学会共催

期日:2016年3月4日/場所:東京大学史料編纂所福武ホール地下1F大会議室

報告Ⅰ 本科研の成果―東大寺文書関連データベースをさらに活用するために
               ……遠藤基郎[PDF][スライド]

報告Ⅱ 中世東大寺堂家の活動について……菊地大樹

報告Ⅲ 鎌倉後期の東大寺大勧進とその周縁―禅律僧の登場……小原嘉記

報告Ⅳ 東大寺図書館所蔵記録類の解題的研究……畠山 聡

報告Ⅴ 東大寺衆中の室町期的展開……西尾知己

討論 コメント:久野修義・横内裕人