『日本中世気象災害史年表稿』ビューア

藤木久志 編『日本中世気象災害史年表稿』(高志書院)について

藤木久志氏により編纂された『日本中世気象災害史年表稿』は、2007年11月に高志書院より出版されました。藤木氏のご遺族ならびに高志書院のご厚意により、本サイトから公開することになりました。本サイトのコンテンツは、本文PDFも含め、オープンデータ(クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際ライセンス)として利用できます。

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はじめに(藤木久志 編『日本中世気象災害史年表稿』(高志書院)より)

私が還暦を迎えた1993年は,この列島社会が厳しい冷害と凶作に見舞われ,ことに北国では,稲作の収量が,平年作の3分の1ほどにまで落ち込むという,悲惨な状況が日々に報じられていた。この深 刻な冷害・凶作情報は,私に大きな衝撃を与えた。
これまで私は,日本中世史を学ぶなかで,大きな旱魃や風水害による凶作や飢饉や疫病が,中世社会にも,いくども起きていたことを知っていながら,それらを,偶発的で個別的な小事件と見なすだけで,それらを日本中世全体のおかれた,厳しい気象状況の中に位置付けることには,まったく無関心であっ たからである。
この深刻な反省をもとに,私は還暦を機に,晩年の小さな宿題として,中世社会の風水害や旱魃,虫損, それらを原因とするとみられる,凶作や飢饉や疫病の情報を,中世の記録や古文書の中から収集する作 業にとりかかった。
なお,災害といえば,地震や噴火を無視することはできないが,これらについては,すでに先学によっ て貴重な集大成が行われているので,私は災害史料の収集を,上記のような気象関連の災害に限ることとした。ただ,直接に気象災害に注目するだけでなく,それを示唆する,百姓の損免要求など,間接的 な情報にも目を向けることにした。
史料の検索は限りがなく,私の狭い知見の範囲を超える,大きな広がりがある。従って本書は,中世 気象災害の総括というには,ほど遠い。本書を「日本中世気象災害史年表稿」と限定したのは,そのためである。作業を始めてから 15 年にわたるので,ここで一区切りしようと,ふと思い立ったに過ぎない。
日本中世をどの範囲とするかは,むづかしい問題であるが,ここでは,かりに10世紀初めから,17 世紀を少し越えるあたりまでを対象とした。
いま自然環境の悪化が,地球規模で深刻な課題となっているが,日本中世史の研究も,この重大な課 題を避けて通ることはできないであろう。そうした直面する歴史的な課題に,本書が少しでも寄与することができれば,まことに幸いである。なお,この年表稿をもとにした私の作品に『飢餓と戦争の戦国 を行く』(朝日選書,2001年)がある。
本書の刊行に当たっては,畏友峰岸純夫氏に出版先のご推薦をいただき,高志書院の濱久年氏には,困難な刊行の労をとっていただいた。あつくお礼を申しあげたい。 なお、校正にあたっては,多くの若手研究者の手あついご尽力をいただいた。ここにお名前を銘記して,謝意を表したい(石原比伊呂・板倉則衣・大塚紀弘・大藪海・杉谷崇之・鈴木翼・浜口誠至・松本貴智・ 宮崎賢一・柳沢誠・綿貫宏樹)。

凡例

1.この年表は,主として,10世紀初めから,17世紀を少し越える時期にわたる,700年余りの,日本中世社会の生活と環境に大きな影響もたらした,風損(大風),水損(霖雨,洪水),旱損(旱魃),虫損(蝗害),凶作,飢饉,疫病に関する,中世の史料情報14,000件余りを,ほぼ原文のまま,年月日順に抄録したものである。なお,作成に約15年ほどを要したため,表記にはやや不統一もみられるが,できるだけ統一に努めた。
2.西暦との対照は,中世では,ほんらいユリウス暦で行うべきであるが,現代の生活の季節と気象の実感に合わせるため,あえてグレゴリオ暦によった。なお,月日不詳の項目は,かりにグレゴリオ暦の一月一日の項に収めた。日付未詳の項目は,かりにグレゴリオ暦の該当月の一日の項に収めた。
3.「地域」の欄には,災害に関する史料の発信元(京都,大和,鎌倉など)や,史料の記載上の特徴,たとえば,「天下大飢饉」「天下一同ハシカ病」などとあれば「天下」,「世間疫疾」「世上不熟」などとあれば「世間」,「諸国洪水」とか複数の国に分散している記事は「諸国」,ある程度の範囲が推定できるものは「畿内」,「近畿」,「関東」などと表記して,災害の地域とその広がりの特徴を知る手がかりとした。
また,改元事情には,災害との関係が深い例が多いので,地域欄に「改元」の項目を網羅的に併記した。
4.「原出典」には,記録,古文書のほか,つとめて年代記類も収めた。ただ,中世にかかる年代記類には,史料批判の余地があり,研究も余り進んでいないので,利用に当たっては,できるだけ同時期の関連する記録や古文書の記事と対比しながら,慎重に活用していただきたい。
5.割注は表記の都合により<>で括ることとした。また文字の不明なものや翻刻しにくいものは[]で表示した。
6.「閏月」にはウ欄を設け,閏月は1,それ以外は0で表記した。
7.記録,古文書類のほとんどは,翻刻刊行された史料集によったが,「日本災異志」「日本震災凶饉考」など,多くの先学の研究成果に依拠したところも少なくない。そのため「原出典」欄のほかに,あえて「掲載書誌」欄を設けて,その旨(孫引きであること)を明記した。災害記事の利用に当たっては,「掲載書誌」欄にもご留意いただきたい。
8.この災害史年表は,先に行われた佐々木潤之介氏,外園豊基氏をそれぞれ代表とする,2つの科研費による研究に,あいついで参加する過程で,作成に多くの協力を得て充実に努めることができた(佐々木科研「日本中世後期・近世初期における飢饉と戦争の研究」2000年,外園科研「日本中世における民衆の戦争と平和」2003年)。本書は,これら研究成果報告書に,そのつど収録した中世の気象災害情報(「日本中世における日損・水損・風損・虫損・飢饉・疫病に関する情報」)を増補訂正したものである。関係各位に心からお礼を申し上げたい。また,本書の作表には,外園氏のお世話で,鵜飼政志氏のご尽力をいただいた。

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【編者略歴】

藤木 久志(ふじき・ひさし)
1933年、新潟県生まれ。新潟大学卒業・東北大学大学院修了。現在、 立教大学名誉教授。文学博士。日本中世史専攻。
[主な著書] 『豊臣平和令と戦国社会』(東京大学出版会)、『戦国の作法』(平凡社ライブラリー)、『戦国史をみる目』(校倉書房)、『村と領主の戦国世 界』(東京大学出版会)、『新版 雑兵たちの戦場』『戦国の村を行く』『飢 餓と戦争の戦国を行く』『土一揆と城の戦国を行く』(以上・朝日選書)、『刀狩り』(岩波書店)ほか。

Printed in Japan ISBN978-4-86215-031-8

DOI 10.57459/hi.dg.disaster_events