本科研では、長谷川和紙工房(岐阜県美濃市蕨生1942―1)の長谷川聡氏のご協力を得ながら、古文書の料紙を復元する研究を進めてきた。
特に前年度(2009年度)以来、長谷川氏と打ち合わせを重ね、1)柔細胞を多く含み米糊は添加しない紙、2)柔細胞を含まず米糊は添加しない紙の復元を行い、合わせて3)白地の和紙と墨書きした和紙を用いた漉き返し紙の作成を行った。
また復元紙の作成に当たっては、史料保存技術室の職員が現地に出張して作成過程を記録し、また一部の作成を行った。これは復元紙の一部を東京大学文学部所蔵「東大寺文書」の修理に用いるためである。
2.試作紙の作成
上記の過程を経て、まず長谷川和紙工房で試作紙を作成し、それを観察・検討してさらに細部の調整を行い、厳密を期した。
3.復元紙の作成
8月7日(土)から8月10日(火)の4日間、史料保存技術室の山口悟史が長谷川和紙工房に出張し、復元紙の作成を行った。
研究集会での議論や原本調査の結果、柔細胞を多く含む料紙は、紙漉きの前に紙料を洗浄していないものであろうとの仮説を得ており、それを踏まえて以下の復元紙を作成した。
1)生漉き和紙
A紙漉きの前に紙料を洗浄しない紙(柔細胞・非繊維物質を含む)
B紙漉きの前に紙料を洗浄した紙(柔細胞・非繊維物質を含まない)
Cチリ取りの際に出た原料を紙打ちして漉いた紙
2)漉き返し和紙
A白地和紙(1回目試作紙のうち洗浄した和紙と洗浄していない和紙の混合)
B墨付和紙(1回目試作紙のうち洗浄した和紙に墨書きした和紙)
4.復元紙作成の成果と課題