昭武一行は、スイス・オランダ・ベルギー歴訪のため、67年9月2日(慶応三年八月 六日)パリを出発する。『渋沢栄一滞仏日記』によれば、一行は当日午前7時に蒸気車 に乗り、11時に昼食をトロアで摂り、午後8時にスイスのバーゼルに到着。ここで一 泊した後、翌日午後にベルンに到着している。 上記の史料は、出立当日の様々な諸出費に関する領収書・メモ類などを綴ったもの の一部である。 ベルン宛電報代領収書は、最初の訪問国であるスイスの首都ベルンへ一行のパリ出 立と到着予定日などを打電した際のものであろう。当時の電報は、汽車より速く遠く へ情報を伝達するために使われることが多かったが、昭武もそのようなものとして電 報を利用したのである。 汽車賃支払いメモは、一行のバーゼル(或いはベルン)迄の鉄道運賃であり、サロ ンカー14名・二等車6名の総計20名であることがわかる。当時の鉄道には王侯貴族専 用車両があり、昭武も当然これを利用したのであろう。 『滞仏日記』では、トロアがシャンパン酒の名所であり「此日御昼食に右の名酒を 饗せしか其味他方の産に超ること数等なりし」と記載するが、鉛筆で書かれた昼食代 メモの最上段に記されている(Champagne 35)のがそれであろう。35フランの酒なら 当然か。
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