大日本近世史料「諸問屋再興調十二」

「諸問屋再興調十二」には国会図書館所蔵の江戸町奉行所引継書類のうちの諸問屋再興調廿と廿壱が収められている。ただし廿壱については後半を次巻に収めることにした。廿については全体が二一件に分けられ、嘉永四年八月から同十二月に至る間の文書三五通が配列されている。その半数は各種商品の問屋が幕府の厳達にしたがって、物価の引下値段を上申したものであり、木綿・繰綿・真綿・紙・〓・瀬戸物・石・生漆・地掛〓燭・綿・薬種・大工道具・樋屋道具・打物などの商品や、髪結の値下げに関するものである。上申にさいしては産地とも示談を遂げて、追々値下げしていく旨を申し添えているし、地掛〓燭屋の場合も生〓の値下げがおこなわれたので、地掛〓燭を値下げするといっている。ただ糸相場については、奥州筋産地において高騰している時期であったため、暫定的な値上げを認めざるをえない事情におかれていた。この売値をめぐっての大坂商人と江戸商人の交渉を示す書状が八通ほど収められている。藍玉についても産地の阿波で高騰しているため、値上げをおこなわざるをえなかった模様である。
 廿壱は四四件からなるが、本巻では第一九件までを収めた。関係する問屋は畳表荒物問屋・畳表青莚問屋・蚊帳問屋・通町組内店組小間物問屋・呉服問屋であり、主要な問題は蚊帳荷物の江戸打越に関するものである。つまり近江産出の蚊帳荷物が関東に輸送された場合、江戸の問屋を経由しないで販売されるときは問屋の手による販売網が乱されたわけで、享保年間の陳皮荷物における同様な問題の係争以来、問屋にとって大きな脅威であったわけである。嘉永六年・七年の両年にわたって争われた結果、江戸打越荷物は禁止となった。
(目次一〇頁、本文二三七頁)
担当者 阿部善雄

『東京大学史料編纂所報』第8号 p.55**-56