76.ロシア連邦サンクトペテルブルグ市所在日本関係史料の調査

二〇〇八年九月二〇日から二六日にかけて、ロシア連邦サンクトペテルブルグ市に出張した。参加者は、保谷 徹・小野 将・久留島典子副所長、そして麓 慎一准教授(新潟大学)である。また現地では、サンクトペテルブルグ国立大學東洋学部ワジム・クリモフ教授に調査協力をあおいだ。
1、 ロシア国立歴史文書館
移転後の新館を訪問し、依頼した史料複製をPDFで受領した。また、次年度の国際研究集会および日本関係解説目録の出版について打ち合わせた。同館は閲覧再開に向けて準備中であったが、七二〇万ファイルをおさめ、総延長二二〇キロメートルと言われる史料書庫その他の施設を見学する機会を得た。同館は、ロシア連邦内の史料デジタル化に取り組んでおり、一六〇テラの大型サーバや大型のスキャニングマシンを設置した様子も見ることができた。
2、 ロシア国立海軍文書館
 旧館および移転後の新館を訪問した。調査した史料複製を受理し、次年度の国際研究集会について打ち合わせた。同館も閲覧停止中であったが、秋から新旧両館とも再開したいとの意向をうかがった。
3、 ロシア科学アカデミー東洋学研究所(新名称:東洋古籍文献研究所)
 イリナ・ポポワ所長と面会し、同研究所が所蔵するサハリン・アイヌと和人の交易帳簿類(文化二年)、東京大学史料編纂所が所蔵する十九世紀初頭の北方紛争記録(「魯人再掠蝦夷一件」外務省引継書類)、これらを研究素材として相互に提供する共同研究プロジェクトの覚書を交換した。また、史料引渡予定書および引渡完了確認書に久留島副所長が署名し、双方のデジタル史料画像データを交換した。東洋学研究所側は、一〇月に来日するワジム・クリモフ教授に委託して共同研究を遂行することなど、具体的な研究の進め方や史料集の出版などについて打合せを行った(クリモフ教授は二〇〇九年七月末まで日本滞在)。
4、 エルミタージュ美術館
 同館の日本関係資料室を訪問し、一八六二年竹内使節団の大型写真を閲覧した。宮殿の大広間に日本使節が勢ぞろいした構成であったが、よく観察するとある種のコラージュ技法で合成された作品であり、背景のカーテンやじゅうたんには筆による書き込みが見られた。また、写真を張り込んで接合した部分もあり、グループ単位の写真を組み合わせ、さらに補填をして使節一行を集合写真に仕立てたものであると考えられる。

(保谷 徹・小野 将・久留島典子)

『東京大学史料編纂所報』第44号