東大寺図書館所蔵薬師院史料(未整理文書)の調査

二〇〇八年三月二六~二七日、奈良市東大寺図書館に出張し、同館所蔵の
薬師院史料調査を行った。この調査は二〇〇二年度よりの継続である。今回
の調査によって全一六括の調書作成は完了したものとする。ただし第九括に
ついては、模写図であることもあって、今回は十分な検討ができていない。
これについては、しかるべき専門家の手に委ねることとしたい。すでに本
『所報』第四一号において、第八括までの概要は紹介したので、ここでは残
る第九括以降についてごく掻い摘んで紹介する。
〔第九括〕
 正倉院宝物の模写図などがまとまる。江戸中後期のもの。本史料(未整理
文書)には、正倉院関係のものが多い。これは執行が、役職上その開封に携
わっていたからであるが、それのみに留まらず、文物への高い関心が、この
ような模写図を残した動機であろう。
〔第一〇括〕点数七八点
 中世・江戸初期に関するものとしては、東大寺薬師院下地指出帳(後欠)、
周防国衙候人連署書状(年未詳、九月十九日)、元興寺領寄進朱印状写(慶
長七年八月六日)、慶長七年法花会記録下書がある。指図としては、文化四
年の薬師院掃除場指図がある。その外は江戸後期の触状などである。
〔第一一括〕点数二一点
 正倉院開封に関する書付類がまとまる。古いものでは室町中期の寛正六年
の正倉院開封次第、また慶長八・一七年の書状下書などがある。
〔第一二括〕点数一七点
 東大寺八幡宮社人など諸役免除・居屋敷寄進安堵に関する織田信長、徳川
幕府による朱印状写など。
〔第一三括〕点数五七点
 寛文四年・延宝三年の倶舎三十講捧物請取状、あるいは宝永元年の法華会
竪者調鉢代請取状など。
〔第一四括〕点数三七点
 江戸時代における薬師院歴代の三綱職・執行職・奉行職の補任状、僧位僧
官補任状がまとまってある。古いものとしては、桃山期の仮名実名書付がある。
〔第一五括〕点数六三点
 永禄六・七・天正四・一七年分の維摩会講師名の書付は中世のもの。その
他は、一族内部の慶事、一族の僧位関連、蔵書目録、文政一二年東大寺領櫟
本村絵図、文化・文政年間の各種法会出仕回状がある。
〔第一六括〕点数一一一点
 江戸時代全般の正倉院開封・蘭奢待関係、天明年間の各種法会出仕回状、
文化一二年東照宮二〇〇回忌法会関連、正徳五年東照宮百回忌法事指図など
がある。
 以上の未整理文書は、薬師院史料第二(記録部)の諸記録を編述する際の
素材となった可能性が高く、記録中にそれぞれ写しがあると思われる。その
照合作業は今後の課題である。
                              (伴瀬明美・及川亘・遠藤基郎)

『東京大学史料編纂所報』第43号