74 日本古写真および田安家旧蔵貼込帳等の調査・撮影(パリ市ほか)

二〇〇四年一〇月三一日から十一月七日にかけてフランスへ出張し、コレージュ・ド・フランス日本学高等研究所(パリ市)・フランス陸軍歴史資料部(ヴァンセンヌ)・アルベール・カーン博物館(ブーローニュ)等を訪問して日本関係史料の調査をおこなった。本出張は、画像史料解析センターの古写真研究プロジェクト研究の一環であり、共同研究員吉田成助教授(東京工芸大学)の同行を得た。
一 コレージュ・ド・フランス日本学高等研究所
同研究所のクレットマン・コレクション(寄託史料、一部は一時借用分)を調査し、主な史料をデジタル撮影で収集した。このコレクションは、フランスの第二次陸軍顧問団員であり、一八七六-七八に来日したルイ・クレットマン工兵中尉(一八五一~一九一四)のもの。同僚との記念写真やオミヤゲ写真のほか、日本各地の風景や建物など、総計六〇〇枚近い写真がアルバムに収められている。今回はこれを高精細デジタル撮影で収集した。
またこれ以外に、クレットマンが東京で入手し持ち帰った「貼込帳」四冊がこのコレクションに含まれていた。これは田安徳川家旧蔵の「献英楼画叢」の一部であり、いずれもデジタル撮影で収集した。
田安徳川家旧蔵「献英楼画叢」四冊の内訳
①「献英楼画叢 初集三」(表紙に「たノ初三」とあり)
折本。表裏に貼り込みあり。前半は女官装束図など。後半は植物写生図など。寛政~文政期のもの。
②「献英楼画叢続編二」(表紙に「ね二ノ二」「写生 草花」とあり)
折本。表裏に貼り込みあり。営中御能の衣装図(彩色)など。文政~天保期のもの。
③「献英楼画叢拾遺 四集二」(表紙に「む一ノ二」「外国」とあり)
折本。表裏に貼り込みあり。脱落・剥れ多し。外国人・外国船関係の図など。文政期のもの。
④「献英楼画叢拾遺 八集三」(表紙に「う二ノ三」「災異」とあり)
折本。表裏に貼り込みあり。前半は異獣の図など。後半は火事焼場図などの摺物が貼り込んである。文化・文政~天保期のもの。
二 フランス陸軍歴史資料部(SHAT)
 同じく第二次フランス陸軍顧問団の一員であったシレースの関連史料がパリ郊外ヴァンセンヌの陸軍歴史資料部(SHAT)に保存されていた。今回はシレースの個人ファイルと古写真(マイクロフィルム)を閲覧し、複写で収集した。
1KT421  シレース(Sébastien Schilles)のファイル
一八七三年四月二五日の仏文契約書(駐仏公使鮫島のサインあるもの)
一八七三年一二月一七日付陸軍省雇入書(和文)、「鉄工教師」二年契約
一八七五年四月一二日砲兵本廠提理大築尚志大佐褒賞品授与状
1KMi-59  同写真コレクション
孫がマイクロフィルムで寄贈した一一五枚の古写真(政府・軍要人とフランス顧問団員の名刺写真など) 
コピーで収集し、マイクロフィルム上で撮影順と表裏の関係を確認した。
三 アルベール・カーン博物館
アルベール・カーン博物館はパリの西郊(ブーローニュの森南方)に所在し、世界各地の庭園(日本庭園も)を集めた庭園博物館でもある。ここに、実業家Albert Kahn(一八六〇-一九四〇)が収集した日本写真コレクションが保存されている。
カーンは、専属カメラマンを擁し、当時の世界各地をオートクローム(初期のカラースライド)で撮影・記録することに情熱をそそいだ。とくに親日家として知られたカーンは、一九一二年から一九二七にかけて(主として一九二六・二七)、日本へカメラマンを派遣し、多くの写真を残した(同館の説明では二五〇〇枚)。また、自宅へ招いた日本人名士の記念写真も多数あり、撮影記録も残されていた。
今回の調査では、コレクションの概要と保存・修補・デジタル化工程を見学した。

(谷 昭佳・保谷 徹・箱石 大)

『東京大学史料編纂所報』第40号