63.サンクト・ペテルブルグ市所在日本関係史料の調査

六月二三日より二九日まで、石上英一所長を団長として同市に出張し、前年に引き続き日本関係史科の調査、ならびに各機関に対して、本所調査事業への協力要請をおこなった。なお、本学大学院人文社会系研究科から、藤田覚教授の同行と協力を得た。また、今回も現地ではワジム・クリモフ教授(サンクトペテルブルグ大学東洋学部)の助言と協力を得ることができた。以下各機関ごとにその概要を記す。
一 ロシア国立海軍文書館
 ソボレフ館長およびマレヴィンスカヤ副館長との面晤を得た。本所との協力関係を維持するため、館長と石上所長の署名により「共同事業と学術協力に関する覚書」を締結した。これに伴い、本機関所蔵の、前近代~十九世紀日本関係史料を対象とする目録作成事業が進行中である。なお本機関は新設備への移転が予定されている。十八世紀のロシア海軍創設期以来、革命前十九世紀までの帝政下海軍文書群はミリオナヤ通り所在の現在地で保存・公開されているが、現代公文書は近郊ガッチナ市の海軍施設にて保管されており、このうち第二次大戦関係のものが新館へ受け入れられる予定である、との館長の談話であった。
二 ロシア国立歴史文書館
 右のソボレフ氏の紹介により、アレクサンドル・ソコロフ館長と面晤を得ることができた。本機関はデカブリスト広場の西側、旧高等法院並びに宗務院に所在。連邦アルヒーフ総局の直轄機関で、ロシア革命前帝政期の国家諸機関からおよそ一三四二フォンド、六百五十万ジェーロ(ファイル)を収蔵(軍と外務省関係を除く)し、欧州でも貴大規模の文書館であるという。但し、目録はカード検索が基本であるとのことで、日本関係史料についての詳細目録編成計画について、館長との協議をおこなった。
三 科学アカデミー東洋学研究所(サンクト・ペテルブルグ支部)
 イリーナ・ポポワ新所長およびクィチャーノフ前所長との面晤を同所でもった。同施設二階の附属ライブラリー、及び一階のアルヒーフにて、近世~幕末維新期の日本関係史科を閲覧した。アルヒーフには初代駐日箱館領事ゴシケーヴイチのフォンドが存在するが、その詳細まで調査できなかった(ライブラリーにも旧蔵書あり)。ライブラリーでは前年度以来の原本調査を引き続きおこなった(なおも今後の詳細な検討を要す)。また、同所は既に日本関係の蔵書目録を刊行している(全六巻、露文)が、これより原本ならびに写本類を抽出する作業を依頼した(その後、成果は入手済)。
四 サンクト・ペテルブルグ国立大学東洋学部
 クリモフ教授の案内で同学部長ステブリン=カメンスキー教授と面晤、史料編纂所の出版物七五〇冊の寄贈と研究協力に関する覚書交換を行った。出版物は極東史研究室に配架される。
五 国立海軍中央博物館
 国立海軍文書館ソボレフ館長の案内を得て訪問した。常設展示でもパルラダ号・アスコルド号など精巧な艦船模型や記録写真のコレクションは特筆に価する。また特別に日本関係資料について調査見学する機会を得た。アレクサンドル・モジャイスキー訪日時のスケッチ帳や、プチャーチン使節団の関係遺品など。
六 エルミタージュ美術館
 とくに日本関係史料を調査見学した。レザノフ一行が幕府へ贈呈する予定なるも持ち帰った品々など(冬宮二階の帝政期工芸品展示コーナー常置、クリモフ教授の談による)。

        (石上英一・小野 将・木村直樹・保谷 徹・柗澤裕作)

『東京大学史料編纂所報』第39号