花押かがみ六 南北朝時代二

『花押かがみ』は、各時代の主要な人物の花押を、原則的に、原本より原寸大に影印し、死歿年月日順に配列するものである。
平安時代、鎌倉時代一~三、南北朝時代一の刊行に続き、その第六冊目にあたる本冊は、南北朝時代二として、貞和四年 正平三年(一三四八)から延文三年 正平十三年(一三五八)までの主要な人物二九四名の花押を収載した。編纂の体例は既刊第一冊と同様であり、収載する花押は、その人物の花押を代表する形のものを選び、その形に変化のある場合や、互いに参照して運筆の順をうかがうことのできる場合は、必要に応じて複数の花押を掲げ、厳密に花押と呼ばれるものの外、自署、草名も適宜採択している。
本文は二段組とし、各段上部には、人名とその通し番号、及び約一、四〇〇点ほどの原寸大花押の影印を、各段下部には、依拠した文書・典籍名や所蔵者名などの説明文を配する。各人について称号・本名・法名等、世系、極官極位、出家及び死歿年月日、年齢などの略伝を付記している。
本冊に収載した人物の採録基準を述べれば、ほぼ以下のごとくである。
死歿年月日がわかる人物の花押については原則的に採録する。
公家の花押については、徐々に減少する傾向にあることから可能な限り採録し、特に南朝年号の文書に据えられた花押については、史料の少ない南朝関係史料を補う意味で多く採録した。具体的には、前者にあっては、煕明親王・松殿忠冬・一条実豊・九条隆教・花園天皇・九条朝房・平宗経・源雅顕・九条道教・吉田隆長・坊城俊実・花山院長定・大中臣親忠・高階雅仲・春日仲能・菅原長員・葉室頼教・近衛経忠・安居院行兼・菅原在成・益性法親王・橘以季・三条実治・柳原資明・久我長通・近衛基嗣・平親明・中原章有・坂上明成・卜部兼豊・入道尊円親王・唐橋在雅・唐橋公匡・吉田国俊・唐橋在貫など、後者にあっては楠木正行・大塚惟正・伊達行朝・厚東武実・南部政長・日野邦光・徳大寺実胤・千種長忠・中院定平・四条隆資・中原章興・中院具忠・藤原家氏・阿蘇惟時・北畠親房・仁科盛宗・小笠原頼清・藤原季俊・春日具資・洞院実世などである。
一方、武家については、室町幕府の主要役職就任者のほか、諸国守護・守護代クラスを目途とした。例えば、二階堂行直・宗盛国・小林国範・河尻幸俊・酒匂久景・上杉重能・赤松則村・富部親信・斎藤基名・千葉貞胤・畠山高国・畠山国氏・赤松範資・小林重長・詫磨宗直・三須倫篤・二階堂行直・長井頼秀・上野頼兼・諏訪信嗣・高南宗継・細川頼春・大内弘幸・上杉朝定・薬師寺公義・島津忠氏・細川顕氏・佐々木直貞・佐竹貞義・宇野頼季・荻野朝忠・宇都宮貞泰・二階堂時綱・二階堂政元・長井高広・粟飯原清胤・佐々木秀綱・高山行家・二階堂行朝・吉良貞家・仁木頼勝・中条秀長・宇都宮公景・佐々木秀貞・岩堀師光・石塔義基・二階堂成藤・二階堂行雄・鞍智時満・桃井義盛・高師秀・一色範氏・吉良満家・斯波家兼・吉良満義・一色氏冬・厚東武直・今川頼貞・一色直氏・斎藤季基・西郷顕景・酒匂貞資・入沢佐貞・間島範清・安富行長などである。
釈家(寺家)については、旧来からの伝統的な大寺院においては、例えば、頼算・貞恵・道賢・有助・賢秀・匡清・定超・覚実・房玄・泰助・道俊・顕増・定我・増基・隆舜・能信・頼仲・定信・賢俊・任雅・弘真・朗清などの長者・座主・別当・院家などのクラスにほぼ限った。前代に興った新しい仏教運動である、いわゆる鎌倉新仏教に属する僧侶の場合は、例えば、鏡尊・竺仙梵僊・一峯明一・珠篋・心日・明峯素哲・宗昭・月林道皎・夢窓疎石・大陽義冲・鈍翁了愚・日郷・実真・肯信・恵鎮・月航全皎・卍庵士願・無人如導など、その主要寺院の歴代住持クラスとした。
以上のほか、いわゆる観応の擾乱の期間を含む本冊に特徴的な人物である玄恵・高師冬・高師直・高師泰・高重茂・卜部兼好などを収載し、特に足利直義は六十八、足利尊氏は九十二の花押を例示して、変遷の様子を詳細に跡付けた。
また、その人物の花押を選択するに際しては、おおよそ以下の諸点を基準とした。
署判そのものにより人物が特定できるもの、同一人物の多様な形態を反映するもの、変化の推移がわかる場合は変化の最初と最後を示すもの、同一人物の官途が変化するもの、などである。特に、草名、自署などについては多く収載するように努めた。
なお、索引・正誤表を第八冊(南北朝時代四)の冊尾に付す予定である。
本書の主たる担当者は下記に示したが、その刊行にいたるまで、非常勤職員渡邊江美子氏以下
多くの協力を得た。その旨を明記して、厚く感謝の意を表する。
(例言二頁、目次二頁、本文三〇三頁、本体価格五、四〇〇円)
担当者 林譲 川本慎自

『東京大学史料編纂所報』第39号 p.47*-48