延喜五年観世音寺資財帳(複製)の調査

二〇〇一年一月、東京芸術大学大学美術館において、『大日本史料 第一編補遺』別冊三(二〇〇一年三月刊行)編纂のため、延喜五年観世音寺資財帳の調査を行った。同学に所蔵される観世音寺資財帳の原本は国宝に指定されており、今回は同学所蔵のレプリカ(コロタイプ)によって調査した。同資財帳は、現状で上・中・下三巻に分かれているが、上巻と中巻の間に位置する脱落断簡が、史料編纂所架蔵影写本「近藤圭造氏所蔵文書」(3071.36/94)に収録されていることが指摘されている(高倉洋彰「『延喜五年観世音寺資財帳』小考」、『鏡山猛先生古稀記念 古文化論攷』所収。森哲也「『延喜五年観世音寺資財帳』の脱落断簡」、『日本歴史』六二六)。今回は、この断簡の接続関係の確認を目的に調査を行った。断簡の形状が影写本からしか知りえないため断定はできないが、中巻の右端(冒頭)は紙継目部分であり、脱落断簡の左端の横界線(全部で九本)およびその引き流れがほぼ一致すると思われることから、本断簡が中巻の冒頭にそのまま接続(つき合わせ)することはまず確実であろう。ただし、上巻との接続に関しては、横界線の高さ・間隔にずれが認められ、影写本からうかがえる断簡紙端の形状も上巻の左端(末尾)と一致しない。このことから、上巻末尾と本断簡とはそのまま接続するのではなく、少なくとも紙継目部分ないしそれ以上が失われているものと考えられる。
                                 (山口英男)

『東京大学史料編纂所報』第36号