大日本古文書 家わけ第十七 大徳寺文書別集 真珠庵文書之四

本冊は『大徳寺文書別集』真珠庵文書之四として、乙箱の文書一八一点をおさめた。真珠庵文書は禅宗の塔頭文書としては量質ともにきわめて豊富な文書として知られているが、前三冊とあわせると、翻刻済み文書はすでに相当量にのぼり、新たな研究条件が生まれている。
本冊の第一の特徴は、越前の深岳寺、山城薪の酬恩庵などの真珠庵末寺のまとまった文書を含むことである。深岳寺関係文書は、たとえば「みせしち」(見質)という文言をふくむ三五八号文書など興味深いものであり、ほとんどが福井県史によって翻刻されているが、本冊には(たとえば三七八号文書の付箋の翻刻など)いくつかの新しい情報も含まれている。また薪酬恩庵の文書は天文一六年より天正半ばにいたるほぼ連続的な酬恩庵納所算用状をふくみ、これまでの冊とあわせて、寺領の詳細な分析が可能である。さらに酬恩庵関係文書で興味深いのは、芹川庄関係文書などに、酬恩庵寺領と六角氏の関係を示す幾つかの史料がふくまれることで、これは酬恩庵史の問題としても重要であろう。
第二の特徴は洛中および真珠庵近傍の諸地の史料が多いことで、これは大きな研究課題であると思われる。特に、これまでの研究との関係では一連の六角町屋地に関する手継文書は、チギリヤ水谷の記事などを含む(四三六号文書)興味深いものである。また、それらに付属の指図は充実したもので、これらは翻刻の上写真を掲載した。さらに西賀茂氷室田に対する清三位入道常盛(清原宗賢)の売券は(四八三号文書)、清原氏の主水司領との関係を示すもので、次冊にも関係文書をおさめる予定である。
以上、アトランダムに述べたが、その他、古文書学的にみて興味深い文書としては、四六三号文書にかかげた包紙の封式、手継文書への奉行人の裏花押の抹消例(花押番号138・139)などがあった。また本冊には料紙の折り方についても興味を引く例が多く、必要な按文を記すとともに、四五四号文書など、写真を掲載した。なお、訂正として、四一七号文書の年記、「大永丙戌」への傍注「(大永六年)」、四四六号文書の端裏書下段の「能勢源左衛門尉殿訴之」の末尾への読点、四九二号文書本文五行目の(三好長慶)の傍注位置の二字下げの必要を記録し、利用に際しての訂正をお願いする。また、本冊から花押掲載頁一覧、印章掲載頁一覧を付載したことを申し添える。
(目次一六頁、本文二八二頁、花押一覧九丁、印章一覧一丁、花押掲載頁一覧表二頁、印章掲載頁一覧表一頁)
主担当者 保立道久

『東京大学史料編纂所報』第33号 p.28*