大日本近世史料 市中取締類集二十三

本冊には、旧幕府引継書類の一部である市中取締類集のうち町触申渡之部二冊、および追加市中取締類集のうち町触申渡・自身番屋・鉄炮鋳立之部一冊を収めた。但し、後者のうち自身番屋之部については、続刊予定の自身番屋之部の追加として収録することとし、本冊は「町触申渡之部・鉄炮鋳立之部」とした。
町触申渡之部は、天保十二年正月の「大手桜田両下馬所江火気相用候商人并女商人罷出間敷旨南北小口年番名主共江申渡」から嘉永六年の「焼古銅売上人者勿論素人ニ而も勝手次第古銅吹所江売上候様町々江申渡有之候様御勘定奉行より達」まで二一四件を収めるが、ある一件に係る関係書類を取りまとめている通常の市中取締類集の形態とは異なり、町触または申渡のみを年月順に収載してある。但し、追加の部分については通常の形態のように関係書類をまとめて一件としてある。こうした点と、本書の従来の体裁を勘案し、本冊では町触または申渡のみであっても、それぞれ一件として扱い番号を付した。
 さて、天保改革は天保十二年五月に開始されるが、本冊では同月、「重キ被仰出」があったので「享保・寛政度之御趣意」に反しないよう心得るように、との町奉行の申渡があり(第二件)、十月には詳しい取締事項を示した町触が出されている(第四件)。また、十二月には、いわゆる株仲間禁止令に伴う菱垣・樽船積問屋の処遇についての申渡があり(第七件)、翌年にかけて、関連の申渡や町触がみえる(第一二・一四・一五・一七件など)。十二月には、歌舞伎三座の浅草猿若町への移転も命じられるが、翌十三年七月に、三芝居歌舞伎役者をはじめ関係者らに対し詳細な取締の申渡があった(第六一件)。十三年十二月には、人宿・奉公人の取締町触が出されている(第一〇三件)。また同月には、質物利下げの町触も出されるが(第一〇一件)、質取りを停止する質屋が出て、却って「軽キもの共」が難儀する事態となり(第一〇九件)、十四年七月には事実上撤回された(第一三九件)。十四年十二月には、旗本・御家人の救済策として出された、札差および猿屋町会所からの借金を無利息・年賦返済とする申渡、これに対抗した札差の休業に対する対策関係の申渡などがみられる(第一六六〜一七〇件)。弘化二年になると、もはや改革は緩んだとの風評が立ち、同年二月、それを否定する申渡が出されている(第一八六件)。第二〇九件からは追加市中取締類集となる。
 鉄炮鋳立之部は、すべて追加市中取締類集に当たり、嘉永二年から同六年までの七件を収める。第一件は、鋳物師松五郎らを浦賀表御用達とし、鉄炮玉等の鋳立てに当たらせた件、第二〜四・七件は、大名などから注文を受けた大筒等の鋳立てに関する件、第五件は大筒鋳立小屋場での鋳立て御用中の火気防人足や出火時の駆付人足の取り扱いに関する件、第六件は鉄炮方道具蔵への非常時駆付に関する件となっている。
 以上のように、本冊の主要な部分を占める町触申渡之部に収められている町触や申渡は、既に刊行済みの本書各冊のなかに含まれているものもあるが、未刊行部分にもわたり、天保改革期を中心とする時期の町触・申渡を、年代を追って一覧できる点で便利である。
(例言一頁、目次四六頁、本文三三三頁)
担当者 佐藤孝之・杉森玲子

『東京大学史料編纂所報』第33号 p.27*-28