近世後期蝦夷関係史料の調査

一九九五年三月二七日から三十日まで、札幌市の北海道立文書館および北見市の市立北見図書館に赴き、江戸幕府が近世後期に行った第一次蝦夷地直轄政策に関する史料調査・撮影した。
 一 北海道立文書館
 同館では、寄託されている阿部家文書の調査を行った。文書の所蔵者は、旧備後福山藩主阿部家の御子孫、阿部正道氏であり、同氏の許可を得て調査撮影をすることができた。その御好意に感謝申し上げる。
 文書の中心は、幕府の勘定方の役人で支配勘定、ついで御勘定となった山木三保助(清房)の御用書留類である。幕府は、文化四年から文政四年まで全蝦夷地を直轄支配したが、その間に蝦夷地御用立会掛を設けて勘定方役人をこれに任命し、蝦夷地御用立会掛を設けて勘定方役人をこれに任命し、一年交代で松前に派遣した。山木もその掛となり、前後四回にわたり松前に詰め、とくに文政四年に直轄を止め旧主松前家に返還する作業にも携わった。このため、江戸および松前における蝦夷地御用立会掛としての職務上の書留・日記、関係史料の写本が豊富である。
 東蝦夷地の直轄を開始した寛政十一年から文化四年までは、松前奉行を務めた羽太正養の『休明光記』『休明光記付録』など、直轄政策に関する史料は豊富であるが、全蝦夷地の直轄を開始して以降は幕府の直轄政策を知る史料は乏しい。松前奉行より下のレベルではあるが、立会として蝦夷地経営に関与した山木の史料は、その欠を補う重要な史料となっている。とくに、蝦夷地経営が困難な局面を迎え、松前家に返還される過程を直轄政策から窺うことのできる史料として貴重な内容を持っている。阿部家に山木の史料が伝来した理由は不明であるが、阿部正精が文化十四年から文政六年まで老中を務めており、これと何らかの関係があると思われる。
 寄託文書は六四点、マイクロフィルムなどによる複製七一点からなり、文書館では、分類記号B20、文書名阿部家文書として文書目録を作成している。次の史料を写真撮影した。番号は請求記号(B20—〇)による。
2、享和元酉頃より留記雑記 保定録 写 天                一冊
  年々御膳所廻産物之御定(享和元年)、高田屋嘉兵衛江被下物(享和元年)御雇医師薬種願請一件(享和元年)、八王子同心江戸掛江被下物、江戸掛御手当金割合之儀伺書(享和三年)など。
3、蝦夷地御用中一件留                          一冊
4、蝦夷地御用為立会松前表江被差遣候に付取計方之儀相伺候書付 山木三保助文化十五年三月  一通
  松前出立にあたり、道中並びに松前における取計につき勘定奉行への伺い。

『東京大学史料編纂所報』第30号