大日本近世史料「唐通事会所日録七」

唐通事会所日録は長崎における唐通事仲間の執務上の日記と考えられ、原題は単に「日録」と記されている。唐通事会所が設置されたのは宝暦元年のことであり、それ以前は年番に当った大通事の自宅を役所として執務していたと思われるから、唐通事会所日録という書名は不適当ともいえるが、従来すべてこの書名でよばれてきているので、本刊本もこの書名を襲用した。
内容は、唐通事の主要任務たる唐船貿易に関する記事をはじめ、在崎唐人の動静、和蘭通詞のこと、台湾鄭氏使者渡来の一件(第一冊)、イタリア人宣教師シドッチの入国(第五冊)、長崎に関する一般の情報等、多岐にわたっているが、とくに直接監督者たる長崎奉行との交渉に関する記事は詳細を極めている。
本刊本の底本は、現在長崎市立長崎博物館の所蔵にかかる「唐通事会所日録」(以下博物館本と略称する)および同館所蔵の「正徳二辰日録」「日録拾」(以下向井本と略称する)である。博物館本は、明治十九年より同二十二年迄の間に、当時の長崎区長金井俊行が謄写させたもので、全十冊からなる写本であるが、その第二を欠き、現存するものは九冊である。向井本は、もと長崎中島聖堂の歴代祭酒の家であった向井家に所蔵されていたもので、昭和九年長崎県教育会の所有に帰し、終戦後は長崎県立長崎図書館に保管されていたが、昭和三十四年一月に至って同教育会から長崎市立長崎博物館に寄贈されたものである。向井本「正徳二辰日録」「日録拾」の内容は、それぞれ博物館本の第九冊および第十冊に相当する。
本刊本は全七冊で、各巻の収載年月は次の通りである。

『東京大学史料編纂所報』第3号 p.68**-69