大日本史料第十二編之五十二

本冊は前冊に引き続き、元和八年(一六二二)年末雑載社寺の条に係る史料を収めた。
 近年、江戸時代初期の史料が次々に発掘され紹介されているが、中でも神社・寺院史料は、各社寺に伝来する多量の史料の調査・整理作業が進められていることもあって、総体としては相当の分量に達している。その結果、本年の年末雑載社寺の条は前冊と本冊の二冊にわたってしまい、総頁数は八百六十三頁を数えた。このため史料の収録方法も、従来のような補任、神事、年中行事といった内容別の分類をやめて各社寺ごとにまとめることとし、かつ次のような規準で配列することにした。すなわち(1)まず全体を国別に分類し、(2)各国の中は神社・寺院に大別する。(3)さらに各社寺の所在地によって、吉田東伍『大日本地名辞書』の順序に従って配列する。以上の通りである。
 社寺関係史料としてはやはり京都近辺のものが圧倒的に多く、前冊には山城一か国の分しか収められなかったが、本冊には残る各国の史料をすべて収載した。
 本冊の中では大和国、奈良周辺の史料が全体の約三分の一、百四十三頁を占めた。まとまった記録としては、春日社の社司東地井祐範と大東延通の二冊の日記がある。また本所も調査に加わっている東大寺・興福寺・薬師寺等の、主として法会関係の史料を(整理途上であるためその一部ではあるが)掲載することができた。
 この他、武蔵国長徳寺の住持龍派禅珠の詩文集である「寒松稿」の本年に係る部分をまとめて載せ、酒井忠勝・内藤政長・真田信之らの転封に伴う諸寺院の移転に関する史料も本冊に集めた。後者は本年九月二十九日、酒井忠勝等諸大名の転封の条(第四十八冊所収)に関係する史料であるが、江戸時代初めのこの時期、移封される大名に従ってかなりの遠隔地にまで移転する寺院(酒井忠勝の場合、信濃松代から羽前庄内鶴岡へ)が少なくなかったことを示しており、寺院史の観点から見ても興味深いものと言える。
 なお本冊には金石文史料をできる限り収録するよう努めた。これは大日本史料の他の編でも最近留意されていることであるが、戦前以来の金石文の調査・蒐集方法は対象年代の下限を慶長期までとしたものが多く(たとえば木崎愛吉編『大日本金石史』など)、元和期以降については蓄積がきわめて薄い。最近一部の地域でようやく本格的な調査が実施されているが、今後、全国各地においてそうした調査研究が進展して行くことを期待したい。
(目次二頁、本文四三七頁)
担当者 高木昭作・黒田日出男・宮崎勝美

『東京大学史料編纂所報』第26号 p.95**-96