大日本近世史料「市中取締類集」十六

本冊には、旧幕府引継書類の一部である市中取締類集のうち、(一)出家社人之部二冊(上ノ一・二・三・四、下ノ上・中・下)、(二)寺社家作窓見隠板之部一冊(一・二)を収めた。なお、(二)は身分取扱之部の巻の最後に合綴されているが、頁数の関係等により本冊に収載した。身分取扱之部は十七の冊に収める予定である。
 (二)は、第一件「出家社人其外町住居停止取締等ニ付申上書」から第一三件「富士講之儀ニ付寛政度以来町触等調」、(二)は、第一件「中之郷御仲間新町外三ケ所家作増減相改公役金取立候儀町年寄申上」から第六件「学問所裏通神田明神西町二階家作取払之儀御儒者より掛合」である。
 (一)は、天保十三年六月に出された、江戸市中住居の出家・社人その他の宗教者を統制する触書にかかわる一件史料である。宗教者の江戸市中における住居、道場、宗教活動等についての寛文期からの禁令が有名無実化したため、天保期には、道場の統制、神職・行人・願人等の居住地の限定・転居、尼僧などの取締りが行なわれ、十三年六月の触書以降には天保改革の市中改革の一環として強力な宗教者統制が実施されたが、その内容を詳細に知りうる好史料である。収録されている史料は、(1)触書の制定と実施の過程に関するもの、(2)派生しておこった一向宗の在家法談に関するもの、(3)富士講禁止に関するもの、からなっている。(1)は、触書の内容をめぐる寺社・町奉行の意見、雑多な宗教者の本寺・師家を確定するために差出させた触頭等の上申書類、市中住居の禁止令により引払・移転を必要とする神職・修験の基準と移転先をめぐる上申・調査書類からなる。(2)は、さきの触書以来、市中の一向宗門徒が在家法談を忌避したため、東西両本願寺が、在家法談を公認する触書の発令を幕府に求めたことにかかわる史料である。(3)は、嘉永二年の富士講禁止に至る寺社・町奉行のやり取り、それ以前の富士講統制に関する取調書・触書等からなる。
 (二)は、(1)寺社家作と(2)町屋の窓見隠板に関する史料で、相互の関連はない。(1)は、複雑な経緯と性格の異なる土地から構成される敷地を有する寺院が、持添地に家作を建てることを出願してきたのに対し、その可否、先例の取調書からなる。(2)は、武家屋敷・幕府の施設に面する町屋の窓に目隠板をはるように武家から要求された町方が、その要求を拒んで町奉行所に嘆願した一件にかかわる史料である。
 なお、本文中の絵図は、前冊と同様に便宜巻末に収めた。
(例言一頁、目次一六頁、本文二九一頁、巻末図版二〇頁)
担当者 橋本政宣・藤田覺・梅沢ふみ子

『東京大学史料編纂所報』第19号 p.53*