大日本古文書家わけ第十八「東大寺文書之四」

この冊は、東大寺開田図を、本所の出版物としては異例に属する地図集の形で出版したものである。
 東大寺開田図は、奈良時代の東大寺の荘園を示した絵図であって、麻布若しくは紙に書かれている。それらの今日までの伝来の経路は必ずしも詳かでないが、その大部分は明治初年に東大寺から皇室に献納せられ、現に奈良正倉院に収蔵されており、他に諸家の所蔵に帰しているものも二三に止まらない。
 本所では、終戦後間もなく、寶月圭吾・彌永貞三の両名を中心に、これらの東大寺開田図の調査を開始したが、近年に至り、これら開田図の精細な写真を数ケ年にわたって撮影し、その成果をコロタイプ図版として、前年度に東大寺文書之四(東南院文書之四)図録を出版した。今回はそれに引続いて、その釈文を作成したのである。約千二百年前に作られたこのような絵図の原本が、二十余点も今日に伝えられているのは、誠に世界にも類のないことと言うべきであるが、さすがにその損傷・汚染等の甚しいものもあり、殊に麻布に書かれたものは、年を追うて褪色・磨滅することは避け難いのであって、今回、写真版並に作図に依って、現状を記録し、公刊したことの意義は、大きなものがあると考える。
 次に本書に収載した諸図の略目録を掲げる。

『東京大学史料編纂所報』第1号 p.29*-30