中山道広重美術館 日本美術史講座3「文字と日本美術」 第8  20041211()

「中世絵画と歴史学」                 藤原重雄(東京大学史料編纂所)

 

T 概論 −関連書籍の案内を兼ねて−

 

0、はじめに

 ・歴史学=文献史学

 ・絵画=美術史学の研究対象

   ⇒1980年代から、中世史研究のなかに絵画史料論の胎動

 

1、史料論・史料学

 ・歴史学の課題・対象と素材

 ・多様性の認識と「いわゆる〈社会史〉」 

 ・隣接学問分野との協調/論争

 

2、中世絵画の歴史的側面

 ・遺物・遺品として

 ・「絵画」「美術」としての自立性の弱さ

   …宗教・信仰の対象・道具。空間・儀礼の場の装飾・演出。贈答品・宝物、生活具。

 ・現実の再現を表現意図とする。 …景観・行事・風俗。時世装。

 ・描かれている内容を理解すること、読み解かれることが想定されている。

   …成立・受容した社会の常識・価値観を内包。絵画コード論。

・今日のわたしたちにわからなくなっていることを描く。前提とする。 

…歴史的知識の動員。

 ・絵画が現実認識の枠組みとして、想像的世界の表象として作用する。

 

3、絵画史料の諸ジャンル

 ・肖像画

 ・絵巻

 ・洛中洛外図

 ・荘園絵図

 ・参詣曼荼羅

 ・掛幅縁起絵(大画面説話画)

 ・中世(南北朝・室町)やまと絵


U 絵巻物分析の一例 −『春日権現験記絵』巻一第四段を読む−

 

1、作品

 ・西園寺公衡の発願により、延慶二年(1309)奉納。

 ・絵は絵所預高階隆兼、詞は前関白鷹司基忠および息冬平・冬基・一乗院良信。

 ・絹本。全2093段。

 ・宮内庁三の丸尚蔵館 ←御物(明治八年:博物館) ←鷹司家(幕末に一時流出)

   ←春日社神庫(興福寺東北院=院主は西園寺家出身による管理。披見台。)

 ・原本/模本(東京国立博物館所蔵の剥落模本)

 

2、『春日権現験記絵』巻一第四段の詞と絵

 ・寛治六年(1092)白河院の金峯山参詣。

  途路に春日社に立ち寄らなかったことを咎められる。

  神馬を奉り、五部大乗経を具して参詣するとの願書。(→巻二第一段:春日社御幸)

 ・金峯山上の「仮屋」にて願書を書かせる情景を描く。

  空虚な場面と奇妙な建物

 

3、贈与の場としての「仮屋」

 ・早川庄八「「供給」をタテマツリモノと読むこと」

 ・平安中期以降、「供給」はかなり限定された意味で使用される。

  「何らかの任務を負って中央から地方に派遣される使者に関する史料」に見られる。

 ・用法には二種。

  @逓送雑事(官使・公卿勅使・検田使・収納使・荘園領主の使などの通過する使者)

  A三日厨(現地に着任した受領、到着した使者などに対して行う饗応)

 ・要するに「供給」とは、「政治的に上位にある者が政治的に下位に位置づけられている在地に赴いたとき、その途次および目的地において提供されるもの」。

  負担であるとともに、「政治的上位者へのもてなしであり、奉仕である」側面。

 

4、『石山寺縁起絵巻』巻一第五段を手がかりに

 ・延喜十七年(917)の宇多院御幸

 ・「風流の御儲」

 ・松葉を屋根に葺く

 

5、絵画コード論的分析と「空虚さ」の意味するもの

 ・描かれている要素に分解し、作品全体の中で検討。

・『年中行事絵巻』の饗宴の場面との比較。


【主要参考文献】

藤原重雄「中世絵画と歴史学」(石上英一編『日本の時代史 30 歴史と素材』吉川弘文館、2004年)

 

平凡社「イメージ・リーディング叢書」

 黒田日出男『姿としぐさの中世史 絵図と絵巻の風景から』(19865月)

 網野善彦『異形の王権』(19868月)

 玉井哲雄『江戸 失われた都市空間を読む』(19866月)

 保立道久『中世の愛と従属 絵巻の中の肉体』(198612月)

 今谷明『京都・一五四七年 描かれた中世都市』(19883月)

 高橋康夫『洛中洛外 環境文化の中世史』(19883月)

 黒田日出男『王の身体 王の肖像』(19933月)

黒田日出男『境界の中世 象徴の中世』(東京大学出版会、19869月)

 

黒田日出男責任編集『週刊朝日百科 日本の歴史 別冊 歴史の読み方1 絵画史料の読み方』

(朝日新聞社、1988年)

保立道久「日本中世社会史研究の方法と展望」(『歴史評論』5001991年)

黒田日出男「図像の歴史学」(『歴史評論』6062000年。

『増補 姿としぐさの中世史』平凡社ライブラリー、平凡社、2002年、再録)

千野香織・西和夫『フィクションとしての絵画』(ぺりかん社、1991年)

若桑みどり「書評 歴史としてのイメージ、イメージとしての歴史−黒田日出男『王の身体 王の肖像』−」

(『思想』8341993年)

黒田日出男『絵画史料で歴史を読む』(ちくまプリマーブックス、筑摩書房、2004年)

 

米倉迪夫『伝源頼朝像 沈黙の肖像』(絵は語る4、平凡社、1995年)

黒田日出男編『肖像画を読む』(角川書店、1998年)

宮島新一『肖像画』(吉川弘文館、一九九四年)

宮島新一『肖像画の視線』(吉川弘文館、一九九六年)

 

鈴木敬三『初期絵巻物の風俗史的研究』(吉川弘文館、1960年)

宮本常一『絵巻物に見る日本庶民生活誌』(中公新書、1981年)

渋沢敬三・神奈川大学日本常民文化研究所編『新版 絵巻物による日本常民生活絵引』(平凡社、1984年)

小泉和子『家具と室内意匠の文化史』(法政大学出版局、1979年)

川本重雄・小泉和子編『類聚雑要抄指図巻』(中央公論美術出版、1998年)

河野通明『日本農耕具史の基礎的研究』(和泉書院、1994年)

渡邉晶『日本建築技術史の研究 大工道具の発達史』(中央公論美術出版、2004年)

藤本正行『鎧をまとう人々』(吉川弘文館、2000年)

 

黒田日出男『〔絵巻〕子どもの登場−中世社会の子ども像− 』(河出書房新社、1989年)

斉藤研一『子どもの中世史』(吉川弘文館、2003年)

黒田日出男・小泉和子・玉井哲雄編『絵巻物の建築を読む』(東京大学出版会、1996年)

藤原良章・五味文彦編『絵巻に中世を読む』(吉川弘文館、1995年)

藤原良章『中世的思惟とその世界』(吉川弘文館、1997年)

保立道久『中世の女の一生』(洋泉社、1999年)

黒田日出男責任編集『歴史学事典 3 かたちとしるし』(弘文堂、1995年)

黒田日出男『朝日百科日本の歴史別冊 歴史を読みなおす10 中世を旅する人々』(朝日新聞社、1993年)

一遍研究会編『一遍聖絵と中世の光景』(ありな書房、1993年)

武田佐知子編『一遍聖絵を読み解く』(吉川弘文館、1999年)

砂川博『中世遊行聖の図像学』(岩田書院、1999年)

砂川博編『一遍聖絵の総合的研究』(岩田書院、2002年)

黒田日出男『謎解き 伴大納言絵巻』(小学館、2002年)

 

瀬田勝哉『洛中洛外の群像』(平凡社、1994年)

黒田日出男『謎解き 洛中洛外図』(岩波書店、1996年)

 

葛川絵図研究会編『絵図のコスモロジー』上・下(地人書房、198889年)

難波田徹『中世考古美術と社会』(思文閣出版、1991年)

小山靖憲・佐藤和彦編『絵図にみる荘園の世界』(東京大学出版会、1987年)

国立歴史民俗博物館編『描かれた荘園の世界』(新人物往来社、1995年)

黒田日出男『荘園絵図の解釈学』(東京大学出版会、2000年)

下坂守『描かれた日本の中世』(法蔵館、2003年)

 

大阪市立博物館編『社寺参詣曼荼羅』(平凡社、1987年)

下坂守『参詣曼荼羅』(日本の美術331、至文堂、1993年)

徳田和夫『絵語りと物語り』(平凡社、1990年)

西山克『聖地の想像力』(法蔵館、1998年)

奈良国立博物館編『社寺縁起絵』(角川書店、1975年)

『国文学 解釈と鑑賞』4711、特集「絵解き」(至文堂、1982年)

絵解き研究会編集協力『一冊の講座 絵解き』(有精堂、1985年)

奈良国立博物館編『仏教説話の美術』(思文閣出版、1996年)

加須屋誠『仏教説話画の構造と機能』(中央公論美術出版、2003年)

 

亀井若菜『表象としての美術、言説としての美術史』(ブリュッケ、2003年)

岸輝『室町王権と絵画』(京都大学学術出版会、2004年)

 

藤原重雄「『仮屋』小考−松の葉を屋根に葺くこと−」

(藤原良章・五味文彦編『絵巻に中世を読む』吉川弘文館、1995年)

早川庄八「「供給」をタテマツリモノと読むこと」(『中世に生きる律令』平凡社、1986年)

黒田日出男「御伽草子の絵画コード論・序説」『歴史としてのお伽草子』(ぺりかん社、1996年)

藤原重雄「絵巻のなかの《伊予簾》」(『月刊百科』4071996年)

五味文彦『『春日験記絵』と中世』(淡交社、1998年)