東京大学史料編纂所第9回史料学セミナー講義概要

石上英一「正倉院文書」における機能と様態

史料編纂所では『大日本古文書』編年文書25冊により正倉院文書を翻刻し、『正倉院文書目録』(既刊5冊)により断簡配列復原研究などの成果を公開している。正倉院文書を素材に、個体文書と群構成文書、個体文書の複合的構造、多点間移動の動体としての機能など、古代文書の多様な機能と様態について論じる。
(参考)石上他編『古代文書論』東京大学出版会、1999年。
     杉本一樹編『日本の美術』440号、至文堂、2003年1月。

遠藤基郎「南都東大寺の中近世史料」

奈良東大寺は、その歴史の長さに相応しく、多様で膨大な歴史の痕跡としての歴史資料が蓄積されている。今回は、まず東大寺が蓄積した様々な歴史資料の全容の概略を窺い見ることをひとつのテーマとする。またその膨大な量にもかかわらずほとんど注目されていない中世後期から近世にかけての史料を紹介すること。これが第2のテーマである。

高橋慎一朗「醍醐寺文書」にみる寺院社会

中世の日本において、寺院が社会全体に占める比重は、現代では考えられないほど大きいものでした。とりわけ大寺院では、「寺院社会」と呼べるような独自の社会が形成されていました。この講義では、京都の醍醐寺に残された大量の史料(「醍醐寺文書」)を素材として、中世の寺院社会が、どのような慣行や組織によって運営されていたかを探ってみたいと思います。

松方冬子「「オランダ植民省文書」からみたウィレム2世の開国勧告」

まず、日本より80年程早く「近代化」を遂げた、オランダ中央官庁組織の一つである植民省の文書構造について、ご紹介します。恐らく、日本の前近代文書に慣れ親しんだ方々は、その構造にあっと驚かれると思います。その後、植民省文書によって、高校の教科書にも出てくるウィレム2世の開国勧告に対して、どのような新しい光を当てることができるのかを皆さんと一緒に見てみたいと思います。

山田邦明「戦国大名家文書の特質」

16世紀、各地に勃興した戦国大名のうち、伊達・上杉・毛利・島津など、近世大名として存続した家には、先祖にあたる戦国大名やその関係者が受給し集積していった膨大な古文書が伝えられてきた。このような戦国時代の大名家文書群は、重要な政治的交渉にかかわる多くの書信などが、一括して収められているなど、他の文書群とは異なる特徴をもつ。ここでは上杉家の事例を中心にしながら、戦国大名家文書の特質について考えていきたい。

高島晶彦・谷昭佳「古文書のかたちを探る―分析と表現の方法―」

従来の古文書研究は、主として書かれている文字や文章を分析する形で進められてきた。しかし文字だけでなく、その「かたち」からも、古文書は多くの情報を発信している。どのような紙が使われたのか、筆跡や花押の書き方などから何が読み取れるか。・・・ここではデジタルカメラなどを駆使しながら、古文書の「かたち」の分析の手法と、そこで得られた所見を表現する方法について、戦国時代の文書を主たる素材として考えてみたい。

山本博文「「島津家文書」にみる徳川将軍政治の空間」

江戸幕府の将軍が、江戸城においてどのように諸大名を引見したか、そしてそれがどのような意味があったのかを、国宝・島津家文書などの史料を読みながら考えていきます。文書のコピーを配布しますが、講義中に原本も見ていただきます。

吉田早苗「裏松固禅と『大内裏図考証』」

江戸時代の故実家裏松固禅(本名光世)は、平安宮大内裏の詳細な考証書『大内裏図考証』を著し、寛政の内裏再建に大きな影響を与えた。現在史料編纂所には裏松家に伝えられた固禅の草稿・図面類、蒐集した儀式書・記録類などが所蔵されている。その史料を紹介し、固禅の故実学研究と『大内裏図考証』執筆について考える。

小宮木代良「近世初期大名家臣の家文書について―立花家臣「矢島家文書」の場合―」

近年の近世政治史研究においては、大量に伝来する大規模な個別大名家文書が重要な役割を果たしてきており、残された課題も少なくはないが、多くの大名家史料の整理・公開・刊行等が進められてきつつある。これに対し、大名家文書と密接な関係を持ち、大量に伝存するであろう大名家臣家文書については、整理・紹介等が進んでいないのが実情である。今回は、本所所蔵の柳河藩家臣矢島家文書を紹介し、藩主立花家文書と関連付けながら大名家臣家文書がもつ可能性を探りたい。

宮崎勝美「大規模武家文書群「益田家文書」の構造」

史料編纂所では今、萩藩永代家老益田家に伝わった1万数千点に及ぶ史料の調査・研究を進めている。この文書群は、益田家当主が家老として藩政に参与したことに関わるもの、萩藩の上級家臣として1万2000石の給領地を支配したことに関わるもの、その他歴代当主の私的な活動に関わるもの、などいくつかの構成要素から成っている。本講ではそうした文書群の構造を解き明かし、合わせて特徴的な史料を選んで読み進める予定である。