東京大学史料編纂所

HOME > 編纂・研究・公開 > 共同研究 > 維新政府による情報・宣伝活動の政治史的研究

研究種目名 基盤研究(C)
研究課題名 維新政府による情報・宣伝活動の政治史的研究(21520664)
研究期間 2009年度~2011年度
研究代表者 箱石 大
研究目的 本研究は、慶応四・明治元年(一八六八)一月の鳥羽・伏見の戦いから、明治二年(一八六九)五月の箱館戦争終結までの戊辰戦争期に限定し、維新政府が行なった情報・宣伝活動のうち、①諸藩に対する情報・宣伝活動とその影響、②民衆に対する情報・宣伝活動とその影響、③外国人に対する情報・宣伝活動とその影響、という最も重要な活動に関する基本史料を収集して政治史的観点から分析を加え、文字や画像が混在する多様な形態の史料を駆使した新たな政治史研究の方法論を開拓するとともに、その研究成果を公開することを目的としている。
【研究の計画・方法】
①諸藩に対する情報・宣伝活動関係史料の収集と分析
 維新政府による諸藩への情報伝達や宣伝活動に関しては、慶応四年二月の諸藩触頭制の創出が重要な画期となる。これは、幕藩制下における江戸城の殿席に基づく政治情報の伝達制度ではなく、有力藩を触頭として管下諸藩を地域別に編制した新たな政治情報伝達制度のことだが、本研究では、触頭となった代表的な藩の関係史料を収集・分析する。
②民衆に対する情報・宣伝活動関係史料の収集と分析
 戊辰戦争期には、『太政官日誌』などの官版日誌や新聞を媒介として、国内政治や海外の情報が比較的正確に流布する一方で、虚実入り混じった風聞・風説や流行り唄(諷刺替え歌)の類いもかなり飛び交っており、民衆レベルでは後者の情報の方が相当影響力を持っていたと思われる。本研究ではとくに、官版日誌や新聞を媒介とする情報世界の周縁に広がっていた口伝えの噂話や流行り唄を媒介とする、より民衆的な情報世界に着目し、そこで展開された民衆を含む広範な身分階層を対象とした維新政府側の情報・宣伝工作について、具体的には長州藩士品川弥二郎が作詞した「都風流トコトンヤレ節」という流行り唄の流布問題を取り上げ、錦絵・摺物などの画像史料を含む関係史料の収集と分析を行なう。
③外国人に対する情報・宣伝活動関係史料の収集と分析
 戊辰戦争期に奥羽越列藩同盟側へ荷担して暗躍し、維新政府を最も悩ませた駐日プロイセン代理公使フォン・ブラント及びシュネル兄弟らの反政府的活動を明らかにし、それへの維新政府による情報・宣伝戦的対応を研究の事例として取り上げる。
 今回、戊辰戦争で戦死した会津藩士河原善左衛門の子孫で、現在スイス在住のユリコ・ヴィルト・カワラ氏より、長年にわたって調査・収集した欧米各国に所在する日本未紹介のシュネル兄弟関係史料(各国の文書館及び個人が所蔵する関係文書・文献のコピーや史料所在情報のメモなど一〇〇件以上にものぼる膨大なデータで、二〇〇七年五月、國學院大學栃木短期大学教授田中正弘氏の仲介により寄贈されたもの)の提供を受けたので、まずはこの新たに入手した海外所在史料の分析を中心として、未だ謎の多い彼らの実像を解明する。
研究実績の概要
  • 2011年度
  • 2010年度
  • 2009年度
【2011年度】
本年度の研究成果は、以下の通りである。
①諸藩に対する情報・宣伝活動関係史料の収集と分析
仙台市民図書館所蔵の郷土資料のうち、戊辰戦争期に仙台藩が作成・配布した木版刊行物を調査した。これは、奥羽越列藩同盟が軍事総督に推戴した輪王寺宮入道公現親王の令旨を布告するためのものであり、維新政府に抗戦する側の情報・宣伝活動を示す史料として重要であることを確認した。
②民衆に対する情報・宣伝活動関係史料の収集と分析
香川大学図書館所蔵の神原文庫資料のうち、戊辰戦争期における諷刺替え唄の歌詞を収載した摺物を調査し、トコトンヤレ節だけでも数多くの替え唄が作られ、その歌詞が出版されていることを確認した。さらに、新潟県立佐渡高等学校同窓会所蔵の舟崎文庫史料のうち、佐渡奉行所の地役人であった山西敏弥の手記「幕末遭難記」を調査した結果、奥羽越列藩同盟が占領・管理していた新潟の花街・古町において、新政府軍の進攻前にもかかわらず、既にトコトンヤレ節が流行していたという事実が判明した。また、京都府京都市右京区京北地区(旧・京都府北桑田郡京北町)の山国隊軍楽保存会に、トコトンヤレ節を元唄とする「山国隊歌」が、現在まで伝承されていることを確認した。
③外国人に対する情報・宣伝活動関係史料の収集と分析
国内所在史料については、鶴岡市郷土資料館所蔵の阿部正己文庫史料のうち、シュネル兄弟・ゲルトナー兄弟関係の文献史料を調査した。また、海外所在史料については、ドイツ・フライブルク連邦軍事文書館所蔵の戊辰戦争期におけるプロイセンと会津・庄内藩との秘密交渉に関する文書の分析を継続した。その成果は、日本学士院による日本関係未刊行史料調査事業(国際学士院連合関連事業)の一環として、日本学士院と東京大学史料編纂所が主催した「在外日本関係史料をめぐる国際研究集会」(2012年2月21日開催)にて、研究協力者であるボン大学のペーター・パンツァー名誉教授と宮田奈々氏の報告により紹介され、研究代表者の箱石も、プロイセン政府が当初の方針を転換し、会津・庄内藩との交渉開始を決定していたという新事 実を追加報告した。なお、この研究成果の一部を基に、NHK・BSプレミアムのテレビ番組「BS歴史館:発見!戊辰戦争 幻の東北列藩・プロイセン連合」も制作・放送された(2011年7月1日放送、制作・テレビマンユニオン)。
次に、本年度実施した出張調査、発表論文、講演等を列挙しておく。
〔出張調査〕
鶴岡市郷土資料館・酒田市立図書館所蔵史料の調査・撮影(2011年12月1日~3日)
香川大学図書館所蔵神原文庫資料の調査・撮影(2011年12月18日~19日)
仙台市民図書館所蔵史料の調査・撮影(2012年1月6日~7日)
山国隊軍楽保存会所蔵史料の調査(2012年1月20日~22日)
新潟県立佐渡高等学校同窓会所蔵舟崎文庫史料の調査・撮影(2012年2月2日~4日)
〔論文〕
「幕末維新史と戊辰戦争」(『歴史評論』第753号、2011年7月)
Max von Brandt und die preußische Diplomatie in den letzten Tagen der Tokugawa-Zeit(原題:戊辰戦争とマックス・フォン・ブラント), in: Ferne Gefährten: 150 Jahre deutsch-japanische Beziehungen(遠来の友:日独修好150周年記念論文集), Regensburg 2011(ドイツ語訳・宮田奈々氏)
〔講演録〕
「戊辰戦争と佐倉藩─維新期における譜代藩の動向─」(『佐倉市史研究』第25号、2012年3月)
〔講演〕
「戊辰戦争と佐倉藩─維新期における譜代藩の動向─」(佐倉の歴史講演会、於・佐倉市立美術館、2011年10月22日)
備考