東京大学史料編纂所

54.ロシア連邦サンクトペテルブルク市所在日本関係史料の調査

二〇一五年九月二七日から一〇月五日にかけて、ロシア連邦サンクトペテルブルク市を訪問し、下記の調査および研究打ち合わせをおこなった。出張者は、保谷徹・小野将(以上、日本学士院経費)、佐藤雄介に加え、新潟大学麓慎一教授(以上海外S科研)の四名である。現地では共同研究者のワジム・クリモフ上級研究員(ロシア科学アカデミー東洋古籍文献研究所)に調査日程のコーディネートおよび通訳等でお世話になった。
一、ロシア国立歴史文書館
 国立歴史文書館では、二〇一四年九月に亡くなったアレクサンドル・コスタノフ館長に代わり、国立海軍文書館長セルゲイ・チェルニャフスキー氏が新館長に着任した。事前協議のうえ、ロシア連邦文書館総局の了解も得て、同館長と研究協力の覚書継続の調印手続きを行った(二〇一五年九月二九日付)。次いで来年度以降のプロジェクトについて協議し、新たに日中韓など東アジア三国と共通にかかわる帝政ロシア史料群の抽出と解説目録作成をおこなうことで合意した。また、同館展示ホールを使用してロシア帝国の郵便・通信に関する史料展示「帝国を結ぶ」が開催され、その開会式典に出席して展示を見学する機会を得た。
二、ロシア国立海軍文書館
 チェルニャフスキー館長の異動にともない、海軍文書館にはワレンチン・スミルノフ館長が着任した。同館長は海軍大学を卒業後、黒海艦隊勤務などを経て、ロシア海軍水路局海図部長、ロシア科学アカデミー歴史研究所研究部長等を経て、現職。新館長およびマレヴィンスカヤ副館長と研究協力協定の覚書文面について協議し、プロジェクトの継続についての合意を得た。同時に、①二〇一五年一月に刊行した『ロシア国立海軍文書館所蔵日本・韓国関係史料解説目録』(太平洋艦隊司令長官アレクセイ海軍大将のフォンド)についての翻訳・出版、②『ロシア国立海軍文書館所蔵日本関係史料解説目録』の追加目録の提供と翻訳・出版、③現在史料編纂所で進めている「太平洋艦隊司令長官リハチョフ大佐航海日誌」の全文翻訳・出版について合意した。このうち②の日本関係追加目録データを新規に受領した。海軍官房文書(フォンド四一七)と海軍監査局文書(フォンド二八三)で、一八四二年から一九一七年までの史料を含み、目録本体はA四版一七二頁程度、総計一二九六件である。
 海軍文書館では、昨年度に引き続き、海図・絵図類を閲覧した。
一三三一- 四- 九三 北太平洋の海図:一七六八、一八〇〇×八五〇。
一三三一- 四- 八二 北極中心に北半球図、一七四六年。一〇二〇×八八〇。
一三三一- 四- 一〇四 日本の海軍水路局の海図集:明治四~一一年頃の測量、一八七八年刊、一冊。
 九三は、北米アラスカとベーリング海峡、カムチャッカ半島、クリル諸島、日本が書き込まれており、ベーリング探検隊のデータを元にしつつ、エドの地名やムサシ・カズサなどの国名も書き込まれている。いびつな形の北蝦夷地がアムールと接しようとしている一方で、もう一つのサハリン島が遠く北方に描かれている。八二は、日本は東海岸のごく一部しか描かれず、カムチャッカを除くと北太平洋はほとんど埋まっていない段階のものである。一〇四は、表紙に『大日本海軍実測図』(海軍水路局)とあり、五七点の実測図をおさめる。北方は樺太楠渓(クシュンコタン)、南方の琉球、さらに朝鮮の諸港も含まれている。保存状態はきわめて良い。
三、ロシア国立サンクトペテルブルク図書館
 ロシア国立サンクトペテルブルク図書館の手稿部を訪問し、主な日本関係史料の所在について情報を収集した。既に収集済のレザノフ日記をはじめ、ラクスマンの公開史料やダヴィドフの手記、ゴロヴニンの幽囚記関係、リハチョフ宛書簡、太平洋艦隊司令長官の訓令集など、ロシア語手稿のなかに多くの日本関係史料が存在する。手稿部長、チエマンティス部員らと今後の協力関係について協議した。
 同館の『ロシア帝国国立図書館所蔵東洋手稿本・木版本目録』(一八五二年)には、日本語の版本等が一四点含まれている。
四、ロシア科学アカデミー東洋古籍文献研究所
 研究協力協定にもとづき、サハリンアイヌ交易帳簿の共同研究をおこなっている。この共同研究について、イリナ・ポポワ所長と面会して意見を交換し、今後のスケジュールを確認した。
五、その他
 以上に加え、ロシア歴史文書館長・同海軍文書館長の招待により、郊外のオラニエンバウム宮殿を訪問し、学芸員の解説のもとに見学した。また、ロシア国立海軍中央博物館、ロシア国立民族学博物館等を訪問する機会を得た。
 以上、今回の訪問によって、二つの連邦文書館との研究協力関係の継続をはかることができ、目録作成や翻訳・出版の合意を得たことは大きな成果である。現地では在サンクトペテルブルク総領事館(山村嘉宏総領事)の御支援・御助力を得たことを付記しておく。
(保谷徹・小野将・佐藤雄介)


『東京大学史料編纂所報』第51号