43.天理図書館所蔵史料の調査

『大日本史料』第三編之二十八、保安二年十一月十二日条・源俊房薨伝の補遺に、国立公文書館所蔵内閣文庫本大乗院文書『神木動座之記』から『水左記』逸文を収録するにあたり、同じ事件の部類記である『永久元年記』(『群書類従』雑部)を参照する必要があったが、活字本では「外記記」に『水左記』と同文が含まれるなどの不審点があり、祖本とみられる天理大学附属天理図書館所蔵『〔永久元年諸記〕』等の調査を行った。貴重な史料の閲覧に御高配を賜った同館には謝意を表したい。〔二〇〇七年度分調査〕
 該書の書誌は『天理図書館稀書目録』和漢之部三(一九六〇年)一三八頁にあり(二一〇・三-イ一三)。巻子一巻。箱表書「慈鎮和尚筆〈日記〉 壱軸」、昭和三十年・天理教教会本部よりの寄贈印。極包紙「慈鎮和尚御筆極〈古筆了雪〉」、極「慈鎮和尚〈永久元年〉(印)」。外題なし。天一地一の墨界線あり(上から三・三、二八・二。界高二五・一、料紙縦二九・三センチメートル。最末の一紙のみ罫もある)。全二一紙、横標準四八センチメートル弱。上欄に「外記々」などの日記名を記す。現在最も利用される続群書類従完成会本の翻刻との主な校異を示す。内閣文庫昌平坂学問所本を以て校した『新校群書類従』、『大日本史料』第三編之十四で指摘済みの点は含め、用字の違いなどは割愛し、内容理解に関わる点を中心とする。
 四五五頁下段一行目:永久元年記→ナシ。同一〇行目:朝憲乎→乎ナシ。同一二行目:而企参洛乎→尚企参洛。同一五行目:而→尚。同一七行目:右将原→右少将。四五六頁上段三行目:□参→節。同五行目:而→尚。同九行目:官務→官掌。同一三行目:「以下僧綱」から同頁下段六行目までは『水左記』閏三月二十二日条(「中失」と「以下」の間で料紙継目があり、継ぎは一見自然に見えるが第一紙を削って第二紙の墨を出している。第二紙は一三・七センチメートルと短く、脱落が考えられる)。同頁下段一・五行目:智芳→智尊。同八行目:昇→舁。同一一・一四行目:訴申→許(ママ)申。四五七頁上段一一行目:難→欲。同頁下段二行目:何為→何為ヽ。同四~七行目:一字下げ。同七行目:思→只(カ)。同八行目:為→各。同一〇行目:云南云北→云々南北。同一二行目:参止→参上。一三行目:祇園社→祇園。一七行目:事々→事云(カ)。四五八頁上段五行目:家充→家光。同頁下段三~五行目:二字下げ。同六~一〇行目:一字下げ。四五九頁下段:三行目:三字下げ。同五行目:不及→不可及。同一七行目:吽→叫。四六〇頁上段八行目:去→出。同一二行目:至也→至也者。同頁下段一行目:未畢→示了。同五行目:申也→申出也。同三行目:放舎→放合(カ)。同四行目:沙汰→沙汰者。同七行目:上…其→其…上。四六二頁下段一五行目:先□→先沙汰。四六三頁下段一〇行目:難→歎。四六四頁上段一一行目:仏法→仏法王法。同一四行目標出あり:神宝棄事、後聞無実者。同頁下段四行目:歎→欲。四六五頁上段六行目:□→(難読だが秡か)。同一四行目:承之→承了。同一五行目:含→含了。同一七行目:者→者了(ママ)。同頁下段三行目:請取→清所。同八行目:仰→御。四六六頁上段二行目:已上定而可被→亡上足而可待。同頁下段六行目:二矢→二失。四六七頁上段二行目:矢→天(小字)。同三行目:彼矢→被(カ)矢。同六行目:衆徒與→衆徒向。同一五行目:閑→閉。同頁下段一四行目:不止行→不止《〃》行。三六八頁下段一行目:実宗→宗実。同五行目:呪詛事→呪詛事《〃》。同六行目:雅覚隆観等→経覚隆観事。同七行目:六人→交。同一五行目:一字下げ。一七行目:雅覚→経覚。四六九頁上段四行目:而→尚。同一二行目:火光→大光。同一六行目:多→進。同:雅覚→経覚。同頁下段一五行目:亡→忘。同一六行目:一字下げ。四七〇頁上段三行目:剱鏃後ニ→箭鏃後二。同七行目:大賊→火賊。同九行目:呈→進。同一三行目:奏之由→奏如何由。同一七行目:智信→知信。同頁下段四行目:往尋→経尋。同八行目:裁許→裁許畢。同一一行目:南部→南都。同一七行目・四七一頁上段三行目:衆徒→徒衆(ママ)。同六行目:当時→当寺。同七行目:相違→相遣。同一一行目:重→進。同一二行目:清水寺→清水寺寺。同一五行目:乱逆→礼(ママ)逆。同頁下段五行目:若不憚→*(難読)不憚。
 京都大学文学部所蔵勧修寺旧蔵本『経広卿御記』(史料編纂所架蔵写真帳〔六一七〇・六八/一/五六二〕による)は本書と同内容で、奥書に「古筆了雪★云、町人右之記一巻〈筆者不知、慈鎮歟、〉持来、見之間書写、今一冊禁中〈江〉写進献畢、/万治二年七月 前亜槐藤(花押)」とあって、伝来の一端を知ることができる。
 大乗院文書『神木動座之記』についても、国立公文書館より原本調査の御高配を賜ったが、紙背文書を含めた全容を紹介する準備は整っておらず、『水左記』逸文を『大日本史料』第三編之二十八・三二五~九頁に反映させたことに報告を止める。

(藤原重雄)

『東京大学史料編纂所報』第44号