東京大学史料編纂所影印叢書 小笠原文書

影印叢書は、史料編纂所が所蔵する原本史料等を精選し、影印によって刊行するものであり、本冊には『小笠原文書』(架番号S0671-17)一八三通を収めた。

『小笠原文書』は、おおよそ中世における信濃守護に任じた小笠原氏に伝えられた文書群であり、元禄四年(一六九一)に越前勝山藩主となった貞信の一流に伝えられたため、『勝山小笠原文書』とも称せられる。昭和二六年(一九五一)に本所の所蔵となった。

同文書は、明治二六年(一八九三)頃に、台紙貼り四帖の手鑑の形態に整理装丁されたが、虫害による虫穴のほか、糊や湿気などの影響によって生じた皺、高い湿度の蒸れによって生じた表面の汚れと磨耗、蝶番のはずれ、など相当な傷みがあったため、近年、装丁を解体して修補が行われた。写真帳『小笠原文書』二冊(架番号6171.44-1)は、昭和三七年(一九六二)に撮影されたものであり、手鑑装であった様子を窺うことができる。本冊では、原則として手鑑装の順序に従って配列し、帖毎に文書番号を付した。文書図版は、一通ごとに最適と思われる大きさで表示し、縮率の一覧を付表として示した。

解説においては、同文書の伝来と特徴について概説し、特に保存修理については詳述するとともに、個別文書について、文書名・年月日・員数・帖別番号・料紙の形状と紙質・法量・紙数・差出・宛所・備考等を記し、文書紙背に端裏書・墨引がある場合は参考図版を挿入した。備考には、墨映、端裏書、墨引、封紙、重ね書、その他の情報を記し、当該文書の、『大日本史料』、信濃史料刊行会編『信濃史料』における収録条、および信濃史料刊行会編『新編信濃史料叢書』第十二巻所収「勝山小笠原文書」における収録頁を示し、対照の便に供した。今回の修補・編纂の過程において、新たに発見された成果や、それに基づく新知見などをも記している。また、年次の比定については、諸説あり今後の研究に俟つべきものがあるが、特に花押の形体変化に注目して年代比定を試みたものも多いことを付け加える。
(口絵二葉、例言・目次一〇頁、図版一九八頁、解説六〇頁、付表二頁、本体価格二五、〇〇〇円)
担当者 近藤成一・高島晶彦・谷昭佳・中藤靖之・中村尚暁・前川祐一郎・山口悟史・林譲

『東京大学史料編纂所報』第44号 p.39-40