東京大学史料編纂所

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オランダ・連合王国所在日本関係史料の調査

 二〇〇七年三月一〇日~二三日(藤田・木村は十九日まで)にかけて、オ
ランダ・連合王国に出張し、日本関係史料の調査をおこなった。参加者は、
保谷徹・木村直樹および藤田覚(人文社会系研究科教授)である。また、オ
ランダでは谷昭佳技術専門員の参加と協力を得た。今回の調査は日本学士院
の国際学士院連合関連在外日本関係未刊行史料調査事業の一環として、同院
の経費によって実施した。
一 オランダ王国
1.オランダ国立文書館(デン・ハーグ市):外務省史料を閲覧し、とくに
 幕府ないし明治新政府から手交された和文書翰のオリジナルを調査した。
 また、書庫や修復室など、文書館内部を見学する機会を得、最新の修補技
 術について意見交換した。
2.オランダ王室文書館(デン・ハーグ市):オランダ研修中の谷昭佳技術
 専門員の協力を得て、一八六二年の幕府使節団(正使竹内正徳)に関する
 記録および古写真を閲覧調査した。いずれもオランダ王室が所蔵するもの
 で、これまで未調査の貴重な史料である。使節団の王宮における接待スケ
 ジュールなどの史料を複製で入手した。また、王宮内に所在する同館には、
 将軍などから受領した贈り物類が保管されており、刀剣や長持ちなど、そ
 のいくつかを拝見することができた。東京大学史料編纂所の外国奉行所文
 書群には、こうした贈答品の製作に関する史料も存在する。この照合作業
 をおこなうことは今後の課題となるものと考えられる。
3.ライデン大学図書館(ライデン市):フォン・シーボルトがのこした史
 料群は数か所に分有されているが、今回はライデン大学が所蔵する地図類
 を閲覧調査した。とくにサハリン(樺太=北蝦夷地)やカムチャッカなど
 北方関係の地図類を請求し、デジカメでメモ的に撮影した。最上徳内から
 入手したとされる松前蝦夷図は著名だが、むしろ五枚セットの蝦夷図が目
 をひいた。どの図も詳細な地名の書き込みがあり、サハリンからアムール
 河口を含む図も精密なものである。デジカメでメモ撮影を行ったが、図面
 の性格については今後詰めていきたい。このほか、江戸城内図や上野彦馬
 を含む古写真アルバムなどを閲覧調査した。ライデン市では、シーボルト
 のコレクションを収めるシーボルトハウスや国立民族博物館を見学する機
 会を得た。
Serrurier186 カムチャッカ図 一葉
 表紙題箋に「東察加之図〔魯斉亜使者レサノツト齎来、文化元甲子冬〕」。
 また「白虹斎蔵(印)」の記載あり。サハリン彩色絵図。蝦夷地は伝統的
 な2嶋の構成となっている。
Serrurier204 松前蝦夷之図 一葉
 「マツマイエゾノツ」の付箋。蝦夷地彩色図。フォン・シーボルトに
 よる一八二五年の書き込みがあり、最上徳内由来のもの。樺太までの航路
 のみで、エトロフまではない。
Serrurier205 蝦夷図 五葉
 蝦夷東北之地・蝦夷西南之地・蝦夷西北之地・蝦夷北島之南浜・蝦夷北島
 之北浜の五図。とくに蝦夷北島(サハリン)のうち、南浜図はアムール河
 口まで入ったもの。いずれも細かい地字が書き込まれている。
Serrurier214 樺太図
 東岸には「中村古市郎」、西岸に「高橋次太夫」の名が書き込まれている。
Serrurier337 江戸御城内御住居之図 一葉
 シーボルトによるローマ字でのルビあり。
二 連合王国
4.大英図書館(ロンドン):大英博物館から移管された日本コレクション
 のうち、近世の政治・外交にかかわる史料を中心に閲覧調査した。基本的
 に和文史料であり、漂流民の記録や政治情報をとめた風説書の類も含まれ
 ている。保谷が担当する編纂史料集(幕末外国関係文書)との関係では、
 文久元(一八六一)年四月二一日付けのオールコック公使宛老中書翰が注
 目される。これは開市開港延期にかかわる書翰で、厚手の大判紙に書かれ、
 同日付けの大君書翰写が添えられている。また、文久二年六月二八日付け
 の長崎領事宛長崎奉行書翰も興味深い。英船乗組みの中国人へ強盗をはた
 らいた日本人へ厳罰を科した旨の報知である。いずれもデジタル撮影を依
 頼し、史料画像を入手した。
865 水からくり一~三
BtofMr.A.vonSiebold,29March1869.
「題辞
抑此本乃外題をば水からくりと名付レハ‥‥
庚申仲春 酔比人呑成述」
初巻は安政元年一〇月~未年末まで、安政大獄に関する風説類。二巻目は
「戌正月十五日、水戸浪士即死姓名書」など坂下門外の変の記事など。三
巻目に「外桜田一件、水からくり付録」、桜田門外の変など、落首・ちょ
ぼくれの類。
873 天子行幸図
 柳川宰相・日野中納言・烏丸宰相・広橋大納言・烏丸大納言・女一宮など、
 行列図。一部彩色あり。Transferredfrom theDept.ofP.B.22April
 1869.
Or.2639 船長日記 版本 全三巻
 文政五年霜月、池田寛親誌。尾張国重吉の漂流記。
Or.2643 蝦夷魯西亜国風土記
 ラクスマン来航一件などの情報留。
Or.14948 文久二年六月二八日付長崎在勤英国領事ウインチェスター宛長
崎奉行高橋美作守書 簡
 英船乗り込みの清国人に対する強盗殺人犯処罰を報知するもの。軸装され、
鳩居堂の木箱入り。「Recd.From Governor,24thJuly1862」の書き込み
あり。巻末に、一九三〇年六月八日付田中昌太郎宛ジョネス書簡が付記され、
本書簡が田中昌太郎(外務省)へ渡った経緯が記されている。これによれば、
根付研究者のジョネスが、大阪駐在英国領事によって長崎領事館で収集した
史料を預り、日本側での保管を勧めたものであることがわかる。デジタル画
像で収集済み。
Or.15586 イギリス渡来一件
 略図添、瀬下能弘写。朱書で壱・弐・三の番付。
 壱、文化十一午年八月十五日、ヱキリス船長崎江渡来一件
 弐、文政□戌年、浦賀湊江イキリス船漂着船并人物、道具類之図
 三、文政五午年四月廿九日浦賀湊着イキリス船‥‥
   文政七甲申年薩州江漂来之一件、右御届之写(閏八月十一日付松平豊
   後守)
   華夷通商考抜粋
 明和八年六月十六日、蘭船送来の筑前国唐泊浦孫太郎、八年漂流につき
A.B.25091(A)文久元年四月十一日付英国公使オールコック宛老中書簡
 両都両港の開市開港延期談判使節派遣に関する老中書簡。久世大和守・安
 藤対馬守が連署して花押をすえる。本紙430×875×3枚貼り継ぎ、厚手の
 大判紙を使用。包紙上書き「書翰」とあり。
 (B)同日付大君書翰写
 354×470、包紙に「大君御書翰写」とあり。
 (A・B)は木箱に納められ、「Officiallettersfrom theJapanese
 Ministers1862
 MUS.BRIT.PresentedbySirRutherfordAlcock.」、内側の紙片には
 「PresentedbySirRutherfordAlcockthroughM.P.L.Simmonds,8
 WinchesterStreetWarwickSqr.Pimlico,18March1863.」とあり。
5.ケンブリッジ大学図書館(ケンブリッジ市):同館に寄託されているジャー
 ディン=マセソン商会文書のうち、幕末維新期に英国公使をつとめたハリー・
 パークスの文書群を閲覧した。内容的にはパークスの本国宛報告書の草稿
 や受信書翰の類が多く、一八八〇年代のものが中心であったが、幕末期の
 ものも一部含んでおり、国立文書館が所蔵する外務省史料との校合が必要
 である。中でもとくに注目されたのは、戊辰戦争のさなかに会津藩の鉱山
 採掘権を外国の投資会社に五〇万ドルで譲渡する旨の英文覚書の写しであ
 る。家老梶原平馬らの印とともに会津藩軍事方の印面が写し取られている。
 こうした史料はこれまで未発見であり、きわめて重要な史料である。今後
 関連史料を調査して事実関係を確定していきたい。
 パークス文書の目録は館内利用のものがあるのみである。目録と概況を
かかげておく。
〔パークス文書目録〕
○書簡と公文
 1.パークスその他宛書簡
 2.パークス発信書簡
 3.パークス宛公文(報告書)
 4.パークス発信公文(報告書):中国一八四九~六五
 5.パークス関係公文(報告書):中国一八六〇
 6.パークス発信公文(報告書):日本一八六五~八二
 ―1~5はパークスの本国宛草稿類。一八六五年十一月に兵庫から発信
したものなど。
 ―6は、「Japan,Treaty Revision,Sir Harry Parkesto Earl
Granville,November20th 1882」の綴り。Memorandum の結論部:
----InconclusionIshouldaddthatIoffertheseremarkssolelyon
myownresponsibility,for,likeallmyColleagues,Icanhaveno
particularinstructionsrelativetoaprojectwhichisentirelynovel.
Iofferthem,letmerepeat,notwiththeviewofabstractingbuto
eventuallyadvancingthePresident・saims.AndifIdesiredtodiscusshisimportantproposalsattheConferenceitwasonlybecause
myGovernmenthopesthatafreeandfriendlyinterchangeofviews
between theForeign RepresentativesandthoseoftheJapanese
Governmentwhoarehereassembledwouldserveasoneofthevest
meansofascertainingwhatamendmentsmaysafelybeintroduced
intotheexistingTreaties,withdueregardtotheadvancement
madebyJapansincetheywereconcluded,andalsototheinterests
ofthesubjectsoftheTreatyPowerswhohavesettledinthiscountryundertheirprovisions
○O.H.M.S.封筒入り資料
 7―10.中国
 11.香港
 12.海峡居留地
 13.日本:(外交)業務と政府
  ―1 英吉利書翰翻訳仮名付:一八五四年九月七日付長崎奉行宛スター
    リング中将書翰、和文の重要単語に傍線をして、意味を注記して
    あるもの。いわゆる誤訳を含むもの。
  ―2 安政六年正月十九日付英艦インフレクシブル号指揮役ジャイシ
    ブルーケル宛外国奉行連署書翰の和文・蘭訳文とも(幕末外国関
    係文書22― 41所収分)
  ―3 遣欧使節候補名前書(水野忠徳ら)
  ―4・5 会津藩が領内の鉱山発掘権を外国資本に50万ドルでリース
    するという内容の契約書。会軍事方の黒印と家老梶原平馬・海老
    名郡治・山内大学の黒印の写がある。本文は英語、署名のみが和
    文。日付は、西暦一八六八年九月十五日、かつ和暦Kayoo(慶
    応か)の年の八月二五日と記されるが、両者は合致しない。事実
    であるとすれば、極めて興味深い史料である。本文には掘り出し
    た鉱石についてのロイヤルティーや道や橋のインフラ整備などの
    規定が細かく取り決められている。真偽の問題もふくめ、本史料
    の性格については周辺史料を調査して慎重に検討する必要がある。
  ―4のタイトル
Copy
 FullPowersgivenbyH.S.H.thePrinceofAidzutoI.M.
JaquemotEsquireforleasingorlettingtoaForeignCompany
ofAdventurersthewholeoftheMinesofGold,silver,copper,
andlead,situateintheEstatesanddominionsofH.S.H.the
PrinceofAidzu
  ―5のタイトル
Copy
 StipulationsandConditionsofanintendedleasetobegiven
bytheGovernmentof AidzutoaCompanyofForeignadventurersofthewholeoftheminesofgold,
silver,copper,lead
&c.situatedintheEstatesanddominionsofH.S.H.the
PrinceofAidzu.
 ‥‥19項目の条款略‥‥
 DoneatWakamatsthistwentyfifthdayoftheeighth
monthintheyearKayooJapanesestyle,orthefifteenthday
ofthemonthofSeptemberintheyearonethousandeighthundredandsixtyeight,
theEnglishtextbeingtheoriginal,and
theJapanesetextatranslationonly
(Facsimile) (会軍事方の黒印)
 梶原平馬(印)
 海老名郡治(印)
 山内大学(印)
 さらに、会津領内の鉱山リストが付記されている。
 Listofthemetallicmountainsorminesknownatthistime
toexistintheEstatesanddominionsofH.S.H.thePrinceof
Aidzu
 Gold
Shuwon
*Hiakutakevroshi
Manaitakura
*Gomautou
Akabanei
*Ishigamori
Kuromori
 Silver
*Honbanskiki
*Kamagasawa
Kerinokisori
Karuyezawa
*Iwaco
 Copper
*Kusakura
*Funawutsizawa
*Sangindo
Namerataki
Ukawabata
Kuwsaki
Nakaiwasawa
Iemigataira
Igasima
*Dosuiwa
Uobasama
 Silverleadandlead
*Kensasizawa
*Usimidzu
Comats
Comata
Shishimichi
*Meotozawa
Namarisawa
*Kingiozawa
*Shirikakazawa
*Namarihoriba
KioKudzub
Kikaneyama
Katagasawa
Thesign*indicatestheminesthatarebeingworkedat
present
  ―6 HiogokenAssembly 一八七九年
  ―7 SentencedesVentsetdelaMer ミカドとブケの動向(仏
    文)
  ―8 封筒のみ
 14.日本:通信
 一八八〇年代の書翰類
 15.日本:パンフレットと新聞
 16.日本:貸付と財政
 17.日本:ホッジス
 18.日本:グランヴィル書簡
  ―1 一八八一年十一月二六日付パークス宛グランヴィル書翰ミカ
   ドへの英女王写真贈与の件
  ―2 封筒のみ
 19.日本:陸海軍力
 20.小笠原諸島
 21.朝鮮
 22.アメリカ合衆国
 23.条約
 24.貿易
 25.外交
 26.行政
 27.パークスの勤務関係
 28.ノートと覚書
 29.雑文書
 30.個人
○その他資料
 31.チャールズ・ジョージ・ゴードン
 32.覚書
 33.雑多な記録
 34.刊行物
 35.議会文書
 36.パンフレット
 37.定期刊行物
 38.地図
 39.建築図
 40.鉄道写真1~6 いずれも日本ではない。
 41.人物写真
  ―1 封筒入り肖像写真Tokio,Aug.28,83Rosen,封筒には
   BaronRosenとあり。髭の男性、横浜で撮影。キャビネ版。ロ
   シアの外交官で、日露戦争時の駐日公使ロマン・ローゼンと思わ
   れる。
  ―2 中国人男性写真、パークス宛封筒の封印は中国公使館のもの。
   差出人名はHo-u-chang。東京あたらし橋内写真師丸木利陽、キャ
   ビネ版。
 42.封筒と包紙
○中国語史料
 43.第2次・3次中国戦争
 44.太平天国の乱
 45.琉球諸島
 46.雑文書
○日本語史料
 47.日本語史料
  中心は藩札数百枚、整理中のもの。
○韓国語史料
 48.書簡
6.イギリス国立文書館(リッチモンド市):ジョン・ラッセル文書
 (PRO30/22)の中から日本関係の書翰類を抽出してすべてデジカメ撮影
 した。一八六〇年代外相時代のパーマストン首相や海軍大臣らからの書翰
 類(半公信)が中心である。その後、外務省史料の日本関係を請求して、
 前項会津藩覚書の痕跡を調査した。
                              (保谷徹・木村直樹)


『東京大学史料編纂所報』第43号p.107