66.那覇市における史料調査

二○○五年七月三一日~八月七日及び二○○六年一月三○日~二月五日、石上は、沖縄県那覇市に出張し、沖縄県立図書館郷土資料室(那覇市寄宮)・那覇市歴史資料室(那覇市銘苅)において、琉球家譜資料、琉薩関係史料、奄美諸島関係史料の調査を行った。この調査は、もともと、東恩納寛惇『南島風土記』に紹介されるように、琉球国統治時代の奄美関係史料が琉球家譜中に見えることから、現存し複写本等が公開されている琉球家譜を悉皆閲覧し、奄美諸島関係史料を収集するために数年前より始めたものである。琉球家譜資料と同時に、奄美諸島関係の史料の調査も進めている。今年度は、画像史料解析センターの研究プロジェクトで、島津家文書中の『南島雑話』の研究を中心とする「南島関係画像資料の研究」の調査も兼ねて行い琉球絵画史関係の文献・新聞記事の収集を沖縄県立図書館郷土資料室・那覇市歴史資料室で行なった。
 琉球家譜は、那覇市史編纂事業として調査、複本収集が行われ、『那覇市史』資料篇第1巻5(総合)・6(久米系家譜)・7(首里系家譜)・8(那覇・泊系家譜)、『氏集』が刊行されている。那覇市歴史資料室には、複写版・写真版などの複本が収集されている。『那覇市史』資料篇第1巻6・7・8に翻印されていない家譜にも、琉薩・琉日・琉中関係の記事が多数ある。これらの中には、『中山世譜』附巻の琉日通交資料から知られる琉球の江戸幕府や島津家への使者についての、より詳細な日記風の記録も多数見られる。また、琉球人の薩摩における医術、神道、絵画、馬術の修行や、薩摩からの陶芸の伝来と展開などに関する記事も多数見られる。また一九世紀の欧米諸国の艦船・使者等の来航に関わる記事や、清国への渡航、冊封使に関わる記事も多数ある。近世の日本・薩摩の琉球との通交、文化交流を知る上で、家譜は重要な史料群であるが、『那覇市史』資料篇に重要な家譜が既に翻印され、その他の現存家譜も複製本が公開されていることもあるのか、薩摩藩史側からも近世琉球史側からも、家譜を通覧して、通交・交流の傍証史料や唯一史料を収集する試みは十分には行われていないように思われる。また、史料編纂所における近世・維新編年史料研究のためにも、琉球家譜の悉皆調査は必要である。調査者は、もともと奄美諸島史料の収集のために琉球家譜の通覧を始めたのでああるが、近世・維新期の研究にとっても琉球家譜は重要な史料群であることを認識した。
 家譜調査では、『氏集』の目録に従い、資料室に複製の備えられている家譜を通覧し、琉薩・琉日関係記事、奄美諸島関係記事を抄録している。残すところ、全二一番中、一番~五番であるが、 一番の向氏関係家譜には、江戸上り、薩摩上国関係記事が多数あり、一応通覧するまでには、まだ相当の日数を要する。なお、その成果の一部は、石上「南島雑話とその周辺」(『画像史料解析センター通信』三○~三三号、継続中)に紹介しており、さらに今後も関係する事項において紹介する予定であるので、この調査報告では省略する。沖縄県立図書館郷土資料室には、琉球家譜の原本・複製本・出版物が多数所蔵され、また東恩納寛惇文庫には、家譜の抄録ノートである「系譜抄」、家譜(複製本を含む)が多数残されている。「系譜抄」は、現存しない家譜の抄出文もあり貴重である。琉球家譜(複製本を含む)は、沖縄県公文書館、浦添市立図書館沖縄学研究室にも所蔵されており、二○○三~四年に、あわせて閲覧している。
 この間、資料閲覧に便宜を与えられた那覇市歴史資料室に改めて謝意を表する。

(石上英一)

『東京大学史料編纂所報』第41号