72 ロシア連邦サンクトペテルブルグ市所在日本関係史料の調査

二〇〇四年六月二七日から七月四日にかけて、ロシア連邦サンクトペテルブルグ市を訪問し、ロシア国立海軍文書館・ロシア科学アカデミー東洋学研究所・ロシア国立歴史文書館・ロシア科学アカデミー文書館・ロシア国立海軍中央博物館クロンシュタット分館などが所蔵する日本関係史料の調査をおこなうとともに、調査事業に関する協力覚書の交換などをおこなった。
本調査には、本学藤田覚教授(人文社会系研究科)・新潟大学麓慎一助教授の参加を得、現地に於てはサンクトペテルブルグ大学東洋学部ワジム・クリモフ教授に調査協力をあおいだ。
〔ロシア国立海軍文書館〕ウラジミール・ソボレフ館長、マレヴィンスカヤ副館長らと面会し、あらかじめ依頼してあった史料複製約二五〇枚・日本関係史料目録第三期分を受領し、今年度の研究集会のテーマについて協議した。また、ヒョードロヴァ専門員からかねて依頼してあったモスクワ所在日本関係史料目録を受領した。
〔ロシア科学アカデミー・サンクトペテルブルグ支部東洋学研究所〕ポポワ所長と面会し、研究協力について協議した。
〔ロシア国立歴史文書館〕歴史文書館アレクサンドル・ソコロフ館長と面会し、「共同事業と学術協力に関する覚書」を交換した。また、同文書館収蔵庫を見学し、十九世紀初頭の日本関係史料を閲覧し、複写して収集した。覚書に基づいて作成された日本関係史料の解説目録を受理した(年度末までに合わせてA4・一五〇枚分受領)。
 同館は、二〇〇五年末には新庁舎へ移転する予定とのこと。現在は、ネヴァ川沿いの旧高等法院(セナート)と旧宗務院(シノード)の建物を使用しており、一三四二のフォンド・六五〇万のジェーロ(ファイル)数を誇るヨーロッパでも最大級の文書館のひとつである。木製棚に配架されたファイルには、膨大な議事録なども含まれており目をひいた。
 閲覧したファイルの概要は以下のとおり。
シベリア委員会フォンドよりф.1264, оп.1, д..577 「日本について、また日本政府との国交について集められた情報」/冒頭に目録あり。六部から構成
①「レプヘル教授による日本国の短い歴史」л2-2об
②「1775年から1777年の、商人レベジェフ、ラストチキン、シェリホフの船による、松前島への派遣、および日本との通商経験についてのロセフ七等文官覚書き」л3-14
③「ゴロヴニン大佐の捕囚からの解放のための、リコルド大佐の艦隊の日本遠征についての情報。5点の写本および2点の図面附属」л15-41(複写入手済)
ラクスマン来航からゴロヴニン釈放までの日露交渉関係史料を多数収録し、日本語史料および原本を含む。日本語史料は下記の通り。
文化十(1813)年三月十五日 松前奉行所吟味役高橋三平重堅・柑本兵五郎祐之連署書翰 л19 差出両名ノ花押アリ、差出名書ハ同筆ナラン/+同露文訳(和紙)、л.21 村上貞助翻訳と推定される
文化十年九月二十六日 松前奉行所諭書л20 奉行服部貞勝朱印アリ/+同露文訳(和紙)、л.22 同心村上貞助(秦一貞)・通詞上原熊次郎黒印連印アリ、露文字ニテ署名アリ
④「ラクスマンの日本遠征についての情報」(日誌)л42-89
⑤ レザノフ報告写 л90-149
⑥「日本地図二点」 л150-151
1漢字で国名・地名が記入。それにロシア文字で中国語読みが記入されたもの。
2国別彩色地図。改宗した漂流民キセリョフらに翻訳させたものである旨説明あり。
〔ロシア科学アカデミー文書館サンクト・ペテルブルグ支部〕クリモフ教授の仲介を得て、ツンキナ館長と面会し、収蔵庫を見学し、日本関係史料目録の作成について協議した。その後、目録作成に関する覚書を交換し、作成された日本関係史料目録を受理した。
同館は一七二八年創設、一九二二年拡張、一九三六年本部がモスクワへ移動している(アカデミー中央文書館)。東洋学者の史料は上記東洋学研究所へ移管されたものが多く(1818年アジア博物館の創設)、日本関係は未調査・手つかずである(カタロギングには1年はかかる/韓国から調査依頼がきたが計画は未定/オランダ関係は部分的ながら1年半はかかった、などの話があった)。
現在、閲覧日は週二回のみ。電子情報化としては将来フォンドのリストをサイトにアップする予定。図書館手稿部(BAN)は別にある、とのこと。
主な所蔵史料は以下の通り。アカデミー中央スタッフの活動(事務関係)/総会の記録(1724-1932)(議事・人事・経理ほか)、附属研究所フォンド:クンストカーメラ(ピョートル創設、現・人類学民族学博物館)・プルコヴォ天文台・植物園・動物学研究所・人類学民族学研究所等々/会員・準会員研究者のフォンドが五〇〇以上ある:総裁コンスタンチン ロモノーソフやパヴロフ、オイラー/ケプラーやティコ・ブラーエまで(エカテリーナⅡ世が購入)/西欧著名学者との文通など。日本関係で特筆すべきものとして、
キリル・ラクスマン(アダムの父・博物学者)
クルーゼンシュテルン:日記(ドイツ語、難読)
シーボルト(リストの粗目録はあるらしい)
探検隊フォンド:ベーリング関係の目録は既刊3冊、など。
〔ロシア国立海軍中央博物館クロンシュタット分館〕海軍文書館ソボレフ館長と歴史文書館ソコロフ館長の案内により、軍港都市クロンシュタット要塞の海軍中央博物館分館を訪問し、同館館長から展示解説をうけ、調査見学する機会を得た。

(小野 将・箱石 大・保谷 徹・松沢裕作)

『東京大学史料編纂所報』第40号