東京大学史料編纂所

HOME > 編纂・研究・公開 > 所報 > 『東京大学史料編纂所報』第24号(1989年)

筑波大学附属図書館所蔵久須美記録の調査

 一九八九年二月二〇日から二二日にかけて、筑波大学附属図書館に赴き、久須美記録の調査・撮影を行った。
 久須美記録は、旗本久須美家の史料であり、もと東京高等師範学校の所蔵にかかり、のち東京教育大学の所蔵をへて、現在筑波大学附属図書館に所蔵されている。その内容については、東京高等師範学校所蔵当時に、元田脩三氏によって「久須美文書解題」(『教育』昭和二年)として紹介されているが、久須美祐光・祐明・祐雋・祐温・祐義の日記・書簡集・紀行文・随筆等からなっている。それらのうち、今回は、佐渡奉行・大坂町奉行等を歴任した祐明の日記・書簡集を中心に、次に掲げる史料を撮影した。なお、祐明は、天保一一年一二月より同一三年八月まで佐渡奉行、小普請奉行をへて、同一四年三月より同一五年一〇月まで大坂町奉行、同年一〇月より勘定奉行となった。  

〔久須美氏略系図〕 祐光──祐明—┬—祐雋——祐温
                 ├祐義 
                 ├友直(豊田藤之進)
                 └祐利

佐渡日記 三冊 (ネ三〇八—七九)
  祐明の佐渡奉行時代の日記。上巻は、天保一一年一二月一九日の佐渡奉行拝命から始まり、翌年四月に佐渡へ出発するまでの、諸々の手続き上の文書が記録されている。中巻は、初め上巻の続きで、四月二三日より「佐州在勤日記書抜」となり、同年六月一日まで。下巻は同年六月二日より、翌年六月一日に帰府するまで。
佐渡の日次 二冊 (ヨ二一六—二七四)
  祐明の佐渡奉行時代の日記。乾巻は、天保一二年四月一九日より同年一二月晦日まで。この間、四月二三日に江戸を出立、五月六日に相川へ到着している。坤巻は、同一三年正月一日より同年五月二七日まで。記述は、前記「佐渡日記」より詳細で、私的な面にも亙っている。
浪華日記 二冊 (ヨ二一六—二七三)
  祐明の大坂町奉行時代の日記。乾巻は、天保一四年五月一六日の江戸出立より同年一二月二九日まで。坤巻は、同一五年正月より同年一〇月五日まで。
難波能雁 二冊 (ル一八五—一八)
  祐明の書簡集。祐明が大坂町奉行在職中に、大坂から江戸の祐雋・祐義へ送った書簡を綴じたもの。上巻は天保一四年六月より一二月まで、下巻は同一五年二月より一〇月までの書簡を収める。内容は、種々の風聞を初め、例えば天保一四年の大坂町人への御用金賦課に関して、その調達の様子を書き送るなど、役向に関わる事柄が多く含まれている。
難波能雁報牘 二冊 (ル一八五—一九)
  「難波能雁」に収められた祐明の書簡に対する、祐雋・祐義等の返書を綴じたもの。上巻は天保一四年五月より一二月まで、下巻は同一五年正月より一〇月までの書簡を収める。祐雋は天保一四年八月より同一五年八月まで目付を勤めており、幕閣の動向や風聞などの情報交換を頻繁に行っていたことが知られる。
飛弾呈書(ママ) 二冊 (ル一八五—二三)
  友直の書簡集。豊田家の養子となった友直(藤之進)が、飛騨郡代在職中に、その職務に関わる事柄などを記して、父祐明に送った書簡を綴じたもの。上巻は、天保一二年三月より同一四年一一月まで。下巻は、同一五年正月より弘化二年二月まで。なお、友直の日記が、東京大学法学部法制史資料室にある。
鳥井甲斐一件日記(ママ) 一冊 (ヨ二一六—一二八)
  鳥居耀蔵に対する「高島四郎太夫(秋帆)一件」および「鳥居甲斐品々姦曲之取計」詮議の記録。勘定奉行として評定所の吟味に加わった祐明が、日を追って経過を記録したもの。弘化二年正月二二日より始め、同年一一月二九日に終わる。
巷談雑録 一冊 (ヨ三八〇—四〇九)
  祐明が、諸大名に関わる風聞などを綴ったもので、記述は四区分されている。そのうちの最初の部分の末尾に、「天保十二年丑六月八日 久須美権兵衛記之」(祐明)とあり、二番目の末尾には、「丑六月十八日認」とあることから、天保一二年の成立と考えられる。
 撮影した史料は以上である。これらの史料は、久須美氏による、江戸と赴任先の佐渡・大坂・飛騨とを結んだ情報交換の記録であり、書簡集は、初めからまとめて綴じることを意図して、用紙や様式を統一して書かれている。そして、この時期は天保改革期に当たり、この時期の幕府等の動向を窺ううえに貴重な記録である。
 なお、筑波大学附属図書館には、他にも久須美家記録に属する次のような史料が所蔵されている。
 難波能雁(ル一八五—一八)/浪花の風(ル一〇六—八)/近郊遊記(ネ三〇八—二二)/日光山行記(ネ三〇八—九二)/祐光雑記(イ四〇〇—七一)/昼の灯燈(イ四〇〇—三〇〇)/風摧篇(ヨ二一六—一九九)/養難養説(ヒ二八〇—八八)/雑羮会話(イ四二〇—二六)/克家集(ル一八五—二一)
                            (藤田 覚・佐藤孝之)


『東京大学史料編纂所報』第24号p.86