福岡・長崎市におけるキリシタン並びに貿易関係史料の調査

一九七九年十一月五日より十一月十三日まで九日間、福岡市と長崎市において、キリシタン並びに貿易関係史料の調査・撮影を行った。今年度の福岡・長崎両市への出張は、これ迄、一九七七年、七八年の両度に調査した九州大学文学部九州文化史研究施設・長崎県立長崎図書館および純心女子短期大学図書館所蔵の文書・書冊の撮影と前記三機関に於ける未調査史料の調査である。
 九州大学文学部九州文化史研究施設では、長沼・古賀・元山・松木の四文庫の所蔵史料三十七点を各文庫毎に撮影し、さらに今回調査した四文庫の史料十七点を追加撮影した。その内訳は、長沼文庫十点、古賀文庫三点、元山文庫十四点、松木文庫二十七点である。この他に、「九州文化史研究所所蔵古文書目録三」所載の近世九州諸藩(福岡・久留米・柳河・中津・佐賀など)に関する各家所蔵文書の謄写本について若干調査を行い、また、長沼・元山文庫の史料のうち、海事・海運関係の史料と近世の国内の遠隔地商業に関連する史料について予備的な調査を行った。
 長崎県立長崎図書館では、渡辺文庫六点、古賀文庫三点、小曽根・青方両文庫各二点、藤文庫一点、その他十七点の合計三十一点を撮影した。
 純心女子短期大学図書館では、昨年度調査分の薬師寺家由�書並に起請文二十三点、他に書冊三点を撮影した。尚、切支丹類族帳十六点(貞享〜安永年間)を調査したが、マイクロフィルム不足のため、これらの撮影は次回に持越した。この他、同図書館所蔵の文献史料のうち、パリ外国宣教会 Mission Étrangère de Paris 関係の史料に就いて若干調査した。
 ここ三年間の調査・蒐集活動の結果、長崎県立長崎図書館における調査・蒐集活動は今年度を以てほぼ終了をみたが、長崎貿易に係る相当量の帳簿史料を有する永見文書の処理などが、なお、今後の課題として残されよう。九州文化史研究所については、調査すべき史料の大部分については調査・撮影を行ったが、森文庫・乙島守家文書・秋月黒田家文書等については来年度に調査・撮影等を行う予定である。また、近世の外国貿易が国内市場と如何なる関連を有するか、という問題関心から、海運・遠隔地商業・初期豪商・問屋商人等に関する史料の調査も必要であり、かかる観点から、今回の調査に於いても、長沼文書等の調査を行ったが、今後、海外史料室の調査と採訪計画にこの面の調査を加味してゆきたい。尚、今回撮影未了となった切支丹類族帳十六点は、来年度に撮影の予定であるが、更に、長崎市立博物館所蔵文書についても今後、調査・採訪を実現したいと考える。

『東京大学史料編纂所報』第15号