大日本史料第八編之三十

本冊には、後土御門天皇延徳元年年末雑載(天文・災異、神社、仏寺〔未完〕)の史料を収める。
天文・災異には、流星・地震・火事等の記事を収めているが、宇佐八幡宮の火災と、溺死者数十人を出した山城宇治橋の損壊が注目される。
神社では、北野社の年中行事を詳細に収載しているが、祠官等が衆議して畠山政長の同社法華堂長日勤行等支度料所摂津榎並庄違乱を幕府に訴えた件、能登守護畠山義統の同国菅原庄押領の件など、在地情勢を反映した記事もみられる。また歴代残闕日記九十二所収の津守氏昭記により、摂津住吉社の神事の模様が知られる。この歴代残闕日記(黒川春村編)は、目録一冊、本文一二六冊からなり、東京大学附属図書館所蔵本と宮内庁書陵部所蔵本が現存するが、前者は関東大震災により大部分を焼失し(現存二十九冊)、後者は第二次大戦中疎開先で十五冊を焼失した。目録によれば、津守氏昭記には延徳元年・同二年の記事があったようであるが、運悪く両本とも焼失部分に入り、原体裁は知る由もない。しかし幸いにも八編々纂用の切貼用写本が作成されていたため、延徳元年分は切貼原稿に依拠して収載し(八編之二十七−三月二十六日足利義煕薨ズル条、同月三十目義煕ノ柩を等持院ニ安置スル条、八編之二十八−八月一日八朔ノ贈遺ノ条、同月十五日明月和歌御会の条、および本冊神社ノ条)、二年分は編纂未了のため切貼用写本一冊が残され、その内容を知ることができる。
仏寺には、中央大寺院の僧職補任、地方寺院の住持補任をはじめとして、諸寺の年中行事・法会・法楽・講問等を収載しているが、相国寺・興福寺に関する記事が大部分を占めている。なお仏寺の条は未完であり、諸寺の往来以下の史料は次冊に収める。
担当者 小泉宜右・今泉淑夫
(目次一頁、本文三九一頁)

『東京大学史料編纂所報』第11号 p.23*