東京大学史料編纂所

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所報―刊行物紹介

大日本近世史料 編脩地誌備用典籍解題 三

本冊には、前冊に引つづき、「編脩地誌備用典籍解題」の別紀第七から第十三まで、原本七冊分を収めた。
これは、東海道の一部と、東山道の地誌の解題の部分で、次冊には、これにつづく北陸道、山陰道、山陽道、南海道、西海道の部を収録する予定である。取り上げられている地誌の点数は、武蔵の百三十一点から、安房の二点まで、さまざまであるが、その内訳は、次の通りである。
伊豆三十点(内、図四点)、相模三十三点(内、図六点)、武蔵百三十一点(内、図三十八点)、安房二点(内、図一点)、上総六点(内、図一点)、下総十三点(内、図二点)、常陸十四点(内、図一点)、東山道六点(内、図一点)、近江十七点(内、図四点)、美濃十九点(内、図七点)、飛騨九点(内、図一点)、信濃三十点(内、図六点)、上野二十三点(内、図一点)、下野三十点(内、図五点)、陸奥三十七点(内、図四点)、蝦夷三十三点(内、図六点)、出羽七点(内、図一点)。合計四百四十点(内、図八十九点)。
この中で、注目される地誌としては、佐藤行信等が、幕命により、伊豆諸島を探索して書き上げた「伊豆海島風土記」、水戸藩士河井恒久が、光圀の命により、見聞を記した「新編鎌倉志」、山岡俊明の「新編武蔵志料」、近藤義休の「江戸志」、菊岡沾涼の「江戸砂子」、佐久間義和が、仙台藩主伊達綱村の命をうけて領内を巡覧して輯録した「奥羽観迹聞老志」、寒川辰清の「近江輿地志略」、飛騨代官長谷川忠崇の「飛州志」、林義郷の「上野国志」、山口高品・佐藤行信等が幕命により、蝦夷地を調査した見聞を記した「蝦夷拾遺」等があげられる。
又、中でも、特に興味深いのは、蝦夷の地誌類である。蝦夷に関する最初の地誌といわれる新井白石の「蝦夷志」をはじめ、天明五年から、二年に亘る実地踏査の成果としてつくられた、前述の「蝦夷拾遺」、寛文九年に起った蝦夷の騒擾、シャクシャイン一揆の記事を収めた「蝦夷一揆興廃記」や、関修齢の「蝦夷記」、寛政十一年、幕命により、松平忠明ら一行に加わって調査に同行し、人物、山水、器用等の図写を命ぜられた谷元旦(谷文晁の弟)の撰する「蝦夷紀行」(図八百十三種を収む)、「蝦夷国界見届御用」をつとめた最上徳内の「蝦夷草紙」、唐太番人をつとめたものからの聞書をしるした「享和辛酉唐太事状」、その他、多彩で、江戸時代中期以降の、蝦夷地研究の時代的要請を物語っている。
担当者 稲垣泰彦・山口静子・鈴木圭吾
(例言一頁、目次四頁、本文五〇六頁)


『東京大学史料編纂所報』第9号p.96