東京大学史料編纂所

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所報―刊行物紹介

大日本古文書 家わけ第十七 大徳寺文書之九

 本冊は、前冊にひきつづき大徳寺本坊所蔵の「己箱」文書の一部を収める。「己箱」はこれを以て完了し、ひきつづき「庚箱」に移る予定である。本冊に収めたのは、天正十九年より正保二年に至る大徳寺及び諸塔頭所領関係の文書群である。
 本冊の文書群は内容上、
①、天正十九年の土居内田畠指出関係文書
②、大徳寺領内妙覚寺に関する一連の年貢支配帳類
③、大宮郷の麦田指出帳類
④、大野郷樋普請用途に関する諸帳
⑤、大徳寺諸建築物の普請用途に関する諸帳
⑥、寺領田畠指出の関係文書
⑦、大徳寺納所納下帳類
⑧、竜翔寺田畠指出帳
⑨、大宮郷家数持人数指出帳類
のグループに大別することができる。
 ①は、秀吉のいわゆる「お土居」築造が在地にどのような影響を与えたかを示すもので、五八点の指出からなる。
 ③に含まれる二五八五号大宮郷麦田指出帳は「大徳寺文書之五」二〇〇三号文書に接続するものであり、両文書を合わせることにより、大徳寺領大宮郷麦田の全貌が明らかとなる。
 ④には、慶長五年の樋普請用途に関する奉行衆、使者への礼銭・大工作料銭、用材費用などが詳細に記載されており、⑤における大徳寺庫司・方丈・塀・石垣普請銀納下帳と共に、十七世紀初頭の諸物価などを解明する一つの史料となろう。
 ⑥のうち、二五九四号文書は、慶長十三年における山城西賀茂郷内に散在する寺領の指出二〇点からなり、近世初頭の寺領支配を検討しうる史料である。
 ⑦は、慶長十七年から元和七年に至る納下帳であり、例えば、板倉勝重への歳暮の礼銭や、梅津堤・鳥羽堤普請の費用、田分奉行衆への礼銭などが記載されていて興味深い。
 前冊では、山城における太閤検地研究にとっての貴重史料を提供したが、それに比して、本冊の文書群は、太閤検地が近世初頭の寺院経済にいかなる影響を与えたかを追究しうる史料であるといえよう。
(目次九頁、本文三三四頁)
担当者 佐藤和彦


『東京大学史料編纂所報』第6号p.103