東京大学史料編纂所

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所報―刊行物紹介

大日本古文書 幕末外国関係文書之三十五

本巻は三十四巻に引続き、万延元年二月朔日より同月廿日(一八六〇・二・二二−一八六〇・三・一二)に至る期間の外国関係文書(和文一六一点、欧文九点)を編年順、国別に収めた。
外国関係・外交交渉問題としては、貿易・居留地・遣米使節・外人殺傷・外国公館関係が主内容をなしている。貿易では、対日自由貿易拡大を求める外国側文書や、貿易による日用品払底・物価騰貴防止のため、府内日用品の横浜直送禁止を建言する町奉行伺書等日本側の対応文書を収めたが、開港以来の争点であった箱館における煎海鼠・干飽勝手売買を告知する同地奉行觸書は、西欧側の自由貿場要求が貫徹した一例と言える。英仏の対中国戦争に使用するための馬匹購入交渉は本巻においてもなお継続されており、幕府はオールコックとの対話書で、千匹以上の輸出を禁止するが、既に購入済のものに関しては許可を与えている。通貨に関しては小判値上等に関する文書が多い。居留地問題では、居留地の最大限拡大、自由を求める外国側と、最小限にこれを抑止しようと努める幕府側の基本態度が各文書に反映されている。遣米使節は、予定外であったがホノルルに寄港し、そのためこの関係の文書はハワイ関係で占められる。外人殺傷問題では、二月五日横浜に発生した蘭国船長デッケル・ボス両名殺害事件が主内容を成しており、殺傷事件の頻発、犯人の未検挙に向けての外国側の強硬抗議に対し、犯人の厳重探索の指令書、及び日本側の検挙についての努力を伝える神奈川奉行対話書を収めた。以上の外、本巻には日蘭通商条約批准書交換証書を収めたが、これは条約本書の和文・蘭文に異同があったため、それについての請書を添付するという特殊形式を取っている。外国公館関係では、各国公使の動静、公館警備等の外、仏公館内で発生した日本人使用人解雇事件文書を含む。これは、仏側が雇用した日本人使用人を、同館常駐の外国奉行支配方が一方的に解雇した事件で、仏側はこれを不当な内部干渉と把え、幕府側は公館安全上必要措置と解し、両者が対立した。条約締結済五国の外、朝鮮人来聘、ポルトガルの通商要求、スイス使節退去に関する文書を含んでいる。
直接に外国と関係する以外のものとして、開港場・蝦夷地関係文書等を収めた。開港場関係では、神奈川奉行支配向の勤務・手当に関する詳細な神奈川奉行上申書などを収めた。
担当者 小西四郎・多田実・稲垣敏子。
(和文目次二四頁、同本文三四九頁、欧文目次二頁、同本文一一頁)


『東京大学史料編纂所報』第5号p.112