日本中世における高等教育機関としての大寺院が都市・社会とどのように連携し、どのような教育普及活動を展開したのか?という問題にせまるため、3年目である2010年度は、前年度来の成果をまとめるとともに、一次史料の調査分析、およびまとめに向けての論点整理を中心的な課題として研究を実施しました。具体的には以下のとおりです。

 

(1)『大日本古文書 高野山文書』第7冊および第8冊のフルテキストデータベース化。業者による入力と、学術支援職員の雇用によるデータ校正を経て、全冊のWEB上での公開が完了しました。

(2)中世高野山から発信された教育普及活動の痕跡として、木版印刷による仏教教理のテキスト出版物(いわゆる「高野版」)に注目し、とくに醍醐寺伝来のものに関して集中的に原本の調査を行いました。

(3)京都市醍醐寺および香川県萩原寺、鎌倉市浄光明寺等の所蔵史料の調査を通じて、中世寺院における学習活動の実態を分析しました。

(4)京都における五山禅僧の教育普及活動を探るため、前年度までに入力した室町時代の貴族の日記における五山禅僧の所見について点検作業を実施しました。

(5)ヨーロッパ中世の大学との比較研究をおこなうために、科研メンバーを対象とする小研究会「ヨーロッパ中世の大学と社会」を開催しました。また、パリのカルチェ・ラタン地区に赴き、ソルボンヌ、ベルナール、ボーヴェ等の中世の大学学寮跡の調査をおこないました。

(6)研究のまとめに向けて、科研メンバーによる研究経過報告を中心とした小研究会を開催しました。内容は、高橋慎一朗「中世高野版の伝来について」・末柄豊「真恵置文写をめぐって」・川本慎自「足利学校と東国の学問をめぐって」・加藤玄「『Town and Gown』再考―西洋中世における大学史研究の現状と課題―」・及川亘「パリ・中世大学史跡調査報告」です。