「日本中世における高等教育機関としての大寺院が都市・社会とどのように連携し、どのような教育普及活動を展開したのか?」という問題にせまるため、初年度である2008年度は、一次史料の調査収集およびその分析作業を中心的な課題として研究を実施しました。具体的には以下のとおりです。

 

(1)『大日本古文書 高野山文書』のフルテキストデータベース化

第1冊から第4冊までを、外部業者に発注して入力を終えました。そのうち、第1冊と第2冊の分を、謝金(雇用)によるデータ校正を経て、WEB上で公開しました。データベース化により、多様な史料検索が可能になり、高野山金剛峯寺における教育普及活動のひとつである「談義」関係の史料が多く含まれることが判明しました。

(2)『高野版』の調査

中世高野山から発信された教育普及活動の痕跡として、木版印刷による仏教教理のテキスト出版物(いわゆる「高野版」)が、列島各地に広範に存在することが確認されました。高野山大学図書館における原本調査で、典型的な高野版の形状を調査するとともに、醍醐寺などにおいて高野版の調査をおこないました。

(3)寺院聖教の調査

京都市醍醐寺・勧修寺および香川県萩原寺等の所蔵史料の奥書などの調査を通じて、中世においてこれらの寺院の僧侶が、高野山をはじめとする他の大寺院に赴き、修学・図書筆写に携わった事例を研究しました。

(4)京都における五山禅僧の教育普及活動のデータ化

室町時代の貴族の日記における五山禅僧の所見を収集し、データベース化をすすめました。『実隆公記』・『親長卿記』・『宣胤卿記』等について入力をおこないました。

(5)ヨーロッパ中世の大学に関する研究

連携研究者のアドバイスをうけつつ、基本的な研究図書の収集につとめました。