東京大学文学部所蔵「東大寺文書」の修理と記録
史料編纂所 高島晶彦
今年度より、東京大学文学部との共同研究として、東京大学文学部所蔵「東大寺文書」の修理を行い、合わせて本紙に関するデータの収集を行っている。
東京大学文学部所蔵「東大寺文書」の修理について
修理前の本紙の状況
裏打ち紙を施している文書で、文字のズレ、糊浮きが見受けられる。
多量の水分を受けたため、変色して本紙の繊維が腐損しているものがある。
虫損箇所に反故にした文書で繕いを施したものが見受けられる。
虫食いによる損傷が見受けられる。
(1) 修理方針
修理に先立ち、修理に関する打ち合わせを行った。
修理方針を策定した。
原則として現状を大きく変更する修理はしない。
初な状態の文書は、過度の修理を施さない。
特に損傷のほとんどないものや少ないものについては、軽いプレスをかけて本紙紙面の折れ皺等を整える程度に留める。
多量の水分を受けたため、変色して本紙の繊維が腐損しているもの等で、裏打ちを施さなければ原形を留めることが困難なものについては裏打ちを施す。
(2) 修理工程
@ 解体 裏打ち紙の除去
A 本紙をレーヨン紙・ゴアテックス・水刷毛で湿りを与えたろ紙・ポリエチレンビニールの順で挟み、本紙に極少量の水分を与えて、紙面の折れ皺等を整え、紙面をフラットにする。
B 本紙に少量の水分を与えて本紙の汚れを除去する。
C プレス乾燥を施す。
D 通常光による撮影。透過光による撮影。
E 本紙のデータを採る。
本紙の寸法・顕微鏡による繊維観察と繊維、非繊維物質の判断・風合い、簀の目、糸目、板目、刷毛目、漉斑の観察・本紙の厚みの計測・重さの計測
色度の計測・光沢度の計測・簀の目計算ソフトを用いた簀の目数の計測
F 修理作業
今回の修理で判明したこと
第2括 5号 「印蔵文書出納日記」
6つの断簡と考えられていたが、接合すると繋がることが判明した。
判断理由
虫損、繊維、切断面、花押の一致による。
【図1】切断面の一致、虫喰い欠損箇所の一致。
【図2】刷毛目の一致
【図3】切断面の一致、虫喰い欠損の一致、花押の一致。
同 文永4年6月24日 東大寺所司文書出納日記(断簡)
文永5年2月21日 勾当栄久文書出納日記(断簡)
上記の二点が繋がることが判明した。
判断理由
文字の残角、虫損、切断面、裏面の刷毛目が一致
【図4】文字の残角部分の一致
【図5】刷毛目の一致
【図6】繊維の一致